(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

同じこと考えるヤツはいるもんだ

静岡県の人材派遣会社が消費税の仕入れ控除制度を悪用。消費税を脱税したとのこと。

これ、みんな手を出さないものの、企業経営者なら誰でも一度は考える裏技。「おっ、ばれやがったな」ってお話。消費税の節税方法としては、実にベタな禁じ手でごぜえます。だけど実は根が深い話。なかなか奥が深いのよ。

消費税の求め方

この話の根本にあるのは、支払う消費税の求め方。実際は微妙な計算方法があるんで、詳しくは国税庁やら税理士やら公認会計士にGO!なんだけど、わかりやすく簡素に説明するとこうなります。

  • もらった消費税−支払った消費税=納める消費税

製造業をイメージするとわかりやすいけど、ある製品を税抜き価格100万円で売る。その場合、消費税として5万円受け取りますよね。一方、その製品の原材料を仕入れるにあたり、税抜きで80万円かかったとする。すると消費税を4万円払ってますよね。なわけで、この場合、納めるべき消費税は1万円となります。

  • 5万円−4万円=1万円

えらい簡素な式ですが、これが消費税の基本的な考え方ね。

納める消費税を少なくするには

この話を元に節税について考えてみませう。納める消費税を少なくするためには次の方法がございます。

  1. もらった消費税を少なくする
  2. 支払った消費税を多くする
  3. 1・2の両方

このうち1はダメ。もらった消費税が少なくなるってことは、売り上げが少なくなるってこと。ここは企業の生命線。「売り上げを減らそう」なんてありえない。「売り上げを増やそう」とするのが企業なので、ここに手をつけることは事実上不可能。1だけではなく、これが含まれる3も当然ダメ。
なので、現実にとれる節税方法は2しかない。如何に支払った消費税を多くするか。これが消費税を節税するポイントとなるわけですよ。

支払った消費税を多くするには

じゃどうすりゃ支払う消費税を増やせるか。一番単純な話はこれ。

  • 経費を増やす

とにかく何でも買えばいいんですよ。消費税を払いまくればいいじゃん!
……ところが、こんなことしたら赤字になるわけで。消費税をケチるために赤字になっちゃ意味がない。黒字を増やすための節税なわけでねえ。ということは、新規に経費を使ってはいかんのですよ。
「今のままで、支払った消費税の額だけを増やす方法はないかなあ」
ここに考えが行き着くわけですな。

課税取引と非課税取引

「支払った消費税の額だけを増やしたい」
この願望を満たすにはどうします? 帳簿をいじったら脱税。経費を増やしたら赤字。八方手詰まりっぽいけど、実は抜け道があるのよ。キーワードは「非課税取引」。取引の中には消費税が発生しないものがあるんですよ。それを「課税取引」にすれば消費税が発生しますよね。消費税を払ってなかったものに消費税を払ってしまえば、経費を増やすことなく支払った消費税を増やせるわけですよ。セロもビックリのマジックですよ。
で、この部分の王様が人件費。お給料の明細には消費税の項目なんてありませんよね。だからこれは非課税取引。給料としていくら払おうが、企業としては一銭も消費税は発生せんのですよ。給与だろうが賞与だろうが非課税取引。
ところが、これが外注になると課税取引になるんだから、アラ不思議。月給21万円で社員を雇っている場合は消費税は0円なのに、人材派遣会社から税込21万円で派遣を出してもらうとこうなる。

  • 外注工賃20万円+消費税1万円=21万円

ね、マジックだと思いません? 経費の額は21万円で変わらんのだけど、1万円分消費税を支払ったことになるのですよ。実はこういうマジックがあるから、どの企業も人材派遣を使いたがるんですよね。自社要員よりも外注の方が節税になるから。分社化するのも同じ理由。人を行き来させた方が、消費税的にはお得になるわけ。ついでに言うと、派遣従業員の給与が安くなるのもこれが一因。自社要員には21万円だけど、外注は実質20万円。分母が税抜きになる分、どうしても安くなるのよね。

じゃ、派遣元はどうするか

ところが、このマジックは派遣受け入れ側の話。問題は派遣する側。派遣する側はこのマジックは使えない。派遣する人間が自社要員なわけでねえ。消費税を発生させようがない。ここが人材派遣会社の泣き所。人材派遣会社は人を商品として売っているけども、その原材料費にあたる人件費には消費税がかからないので、消費税を払えない。けれども派遣すれば消費税を受けとる。どうしても消費税貧乏になる業種なんですよ。
そこでこういう偽装をしてごまかす輩が出現するわけですな。何とか消費税を節税しようと。長くなりましたが、あれこれ分解して説明すると、こういう構図のお話。
なので人材派遣会社にとっては体質をあらわす象徴的な事件。これ、まだまだ出てくるよ。それにこの話は人材派遣に限らず、サービス業全般に絡むお話。特にシステム系IT企業なんか微妙だぞ。「なんちゃらソリューション」を提供している企業は、SEを派遣扱いで消費税処理しているケースが多いだろうし、複雑な子会社取引でごまかしているケースも多いだろうしね。
ほじくると色々出てくるぞ。