(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

インフレの視点

テレビをぼんやり見ていたら「日本の経済成長に伴い、年金受給額も増える一方ですよ!」「老後の生活は年金で安心ですよ!」みたいな売り文句で社会保険庁関係者が年金加入を呼びかけていたのに唖然茫然。でもこれを真に受ける人がいるんだろうなあ。恐ろしや、恐ろしや。
何が恐ろしいかというと、この売り文句は話の前提をわざと隠しているから。

  • 日本の経済成長に伴い、年金受給額も増える

これ、実は嘘。何でかというと「経済↑=給料↑」じゃないから。これってこういう構図の話なんですよ。

  • 経済が良くなると給料が増える
  • 給料が増えると納付する年金保険料も増える
  • 年金の元本が増えるから将来の受給額も増える

だけども、最近は経済が良くなっても給料が上がってない。ということは、この話の前提が崩れているわけで、ズバリ言って絵に描いたモチなんですよ。
「いやいや、経済が良くなれば株価が上がるので、年金運用のリターンが増えるんです。だから受給額も増えるんです」という反論も予想されますが、これも嘘。何でかというと、これまでの過去のデータをもとに将来のリターンは計算されていて、尚且つ、そうなるように投資されているので、経済が良くなろうが悪くなろうが、その計算結果から大きくはずれることはねえんですよ。5年くらいの期間なら多少のスレはあっても、50年という長期で考えれば安定的に4%とか5%でまわるように制度設計されているので、経済がどうなろうと結果は一緒なんです。これはサイコロを数多く振ればどの目も6分の1で出るようになるというのと同じ理屈。短期的には偏っても、長期的には確率通りになるもんなんですよ。
しかしもっとも大事な隠れた前提は、実はインフレの問題。これを考えずして年金で安心とは言えんのです。
よく「オレの若い時は100円で映画を見て食事して……」みたいなことを年配の方が話されますね。これって物価の話。同じ100円でも時代によって価値が違うのですよ。幸いにして最近の日本はデフレが続き、物価が一定だったために実感がないですが、基本的に物価は上がるのが普通。今の1万円より、10年後の1万円の方が価値は低いのです。
そう考えるとわかる話なのですが、年金の受給額って意味がない話なんですよ。10万円だろうが20万円だろうが、額面の話にあんまり意味はない。大事なことはその受給額で何ができるかなんです。「どのくらいの額か」より「どのくらいの価値が」なのよ。端的に言って「年金受給額で暮らせるか」が最重要。家賃20万円の時代に年金を20万円貰っても仕方ねえわけでさ。
此度目撃した社会保険庁のアピールには、こうしたインフレの視点が決定的に抜けていると感じるわけですよ。また、それを国民に知らせる体でもなし。このあたりに作為的なものを感じてしまうわけです。お金が増えるかどうかは額面で考えるのではなく、物価に対してどうかという視点がないといかんのです。「額増えて貧しくなる」これをわかるかどうかは非常に重要。そろそろインフレになりそうなので注意した方がよかですぞ。