(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

サマータイム、もうだめぽ

マジでサマータイムやるの?

サマータイム制度の導入について「国民の意識改革に役立つことを積極的にやってほしい」と述べ、前向きに検討するよう指示した。

http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2008052600816

首相は「かつて日本も戦後一時期(制度を導入)したことがあったが、やめてしまった。今は大体どの国もやっている。党の方でも検討をお願いしている」と語った。

http://www.asahi.com/politics/update/0526/TKY200805260324.html

どうなんだろうね、サマータイム。政治の世界じゃ思惑があるだろうから本音はわからんが、ディベート的には「サマータイムもうだめぽ」が定説になってるんだけどな。オレも何回かこのテーマでやったけど、どう考えてもアレですよ、こりゃ。デメリットは明確になってきてるけど、メリットが危ういもん。

サマータイム制は、日中の明るい時間を有効活用し、エネルギー消費量を抑えるとされる。

http://www.asahi.com/politics/update/0526/TKY200805260324.html

って言うんだけど、どうだかなあ。
サマータイム導入論者はこう主張するんだよね。

  • 日中の時間が延びる
    • 照明を使う時間が減り、電気使用量が減る
    • 明るい時間が増え、交通事故や犯罪が減る
    • 余暇を楽しむ時間が増え、経済活動が活発になる

特に最近は一つ目の省エネの観点で導入論が語られるんだけど、このメリットが成立するかは、かなり怪しい。

日本は東西に長いので、効果が生じない地域がある

サマータイムの狙いとしては、日中時間が長い季節は、その時間を有効に使いましょうということなんだけども、日本の場合はこの狙いが達成されるか微妙。その最大の理由は国土の形。東西に長いので、同じ日本国内でも日の出・日の入の時刻に大きな差が出るんですよ。

こちらのページで各地の日の出・日の入時刻を調べられるので、ちょっとまとめてみますか。例えば今年の4月1日・6月1日・8月1日で札幌・京都・那覇の3地点で比較するとこうなる。

4/1 6/1 8/1
場所
札幌 05:17 18:01 03:58 19:07 04:25 18:56
京都 05:44 18:18 04:44 19:06 05:06 19:00
那覇 06:20 18:46 05:37 19:18 05:55 19:16
国立天文台(NAOJ)

見てわかるように、日の出の時間を見ると、札幌と那覇では1時間以上もそれぞれ違う。ということは、サマータイムが実施された場合は1時間進ませるので、今年の4月1日を例にとると、札幌では6:17が日の出になるのに対し、那覇では7:20となる。と、各地域で次のようなことが起きる。

(2008年4月1日の出来事)

  • 札幌 6:30起床 日の出13分後起床 「おっ、太陽が出てるな。いい朝だ」
  • 京都 6:30起床 日の出14分前起床 「ん? まだちょっと薄暗いな」
  • 那覇 6:30起床 日の出50分前起床 「……真っ暗やん!」

ちなみにこれ、まだ地域間の差がない方。この差は夏至に向けて大きくなる。現に今年の6月1日は、札幌と那覇で1時間39分の差がある。ってことは、そもそも国内に1時間の時差がある状態なので、どっちかに有利なようにすると、もう一方は不利を被る。つまり、あまり意味がないんですよ。

犯罪は減らない

なので、トータルで見れば日中時間は減らない。確かに夜の時間は減るかも知れないが、夜が明けていない朝の時間は延びる。ということは、空が暗い時間の総量は全国的に見たら変わらない。「暗い時間に交通事故や犯罪は起こる」のであれば、北海道とかの夜の時間が減る分、確かに交通事故・犯罪は減少するが、一方で沖縄などの暗い朝の時間帯が増えるので、その時間帯の交通事故・犯罪は増加することになる。典型的なトレードオフにしか過ぎないので、この点に関して効果があるとは言えない。

省エネにもならない

また、これはそもそもの目的である省エネについても言える。日照時間を延ばすことで、照明などの電気使用量を減らすことを意図しているわけだけども、東西に長い日本の国土のせいで、日照時間が長くなる地域をつくると、日照時間が短くなる地域ができる。これまた単なるトレードオフ。朝の電気使用量を増やすか、夜の電気使用量を増やすかというだけで、トータルの電気使用量は減らない。

そもそも省エネと経済活動活発化は矛盾する

それでも省エネになるというのなら、経済活動が活発になるという論理はおかしい。サマータイムを導入しても、日本全体の電気使用量は変わらない。それでもなお省エネになるというのなら、どこかで電気を使わなくなったというだけで、その分の経済活動が弱まったということになる。
また、「余暇を楽しむ時間が増え、経済活動が活発になる」のならば、その分、余計な電力などが消費され、かえって環境に良くないはず。今までより経済活動が活発になるんであれば、余計に電気を使わなければおかしい。
つまり省エネ効果があるのであれば経済活動が弱まるはずだし、経済活動が活発になるのであれば省エネにはならない。

エネルギー消費↓=経済活動↓
経済活動↑=エネルギー消費↑

こういう対偶の関係になるのが自然であるまいか。

年2回の生活リズム変更

それに面倒くさい。サマータイムを導入すると、年に2回、時刻を変えなくてはならない。ある日では1時間早め、ある日では1時間遅くする。この負担が結構あるはず。

こちらは日本睡眠学界の報告書。季節による就床・起床時刻の変動がデータとして盛り込まれております。

(p17)

就床 起床 就床 起床 就床 起床 就床 起床
23:36 06:31 23:39 06:35 23:40 06:31 23:38 06:28
「サマータイムと睡眠」サマータイム制度に関する特別委員会中間報告書 - 日本睡眠学界

このように、日本では季節ごとの変動がほとんどない。一定の生活リズムで眠り目覚めている。太陽とか日の出合わせではなく、完全に時刻に合わせて生活している。これを崩すとどうなるか。
この報告書では次の4点を結論としております。

(p44)

  1. サマータイム制度により、年2回の時刻変更時に一時的(数日から数週間)に、また夏期には一部地方で持続的に、健康人であっても睡眠が不足し、またそれに起因する事故等が増加する可能性がある。
  2. 時刻変更時に、睡眠覚醒リズム障害者の症状が悪化する、または潜在的なリズム障害者が発症する可能性がある。
  3. 日本人特有の文化・ライフスタイルから、睡眠時間のさらなる短縮が危惧される。
  4. サマータイム制度が日本人の睡眠や生体リズムに及ぼす効果を検討する目的で、試行実験等のシミュレーションを含めた睡眠研究を早急に行う必要がある。
「サマータイムと睡眠」サマータイム制度に関する特別委員会中間報告書 - 日本睡眠学界

とまあこういう危惧があると。現実にアメリカとかカナダでは、時間変更後の週明けには自動車事故が増えるという報告もある(中沢ちひろサマータイム省エネルギー」『生活と環境』2005)。また、ロシアでは丁度この問題を議論中。

インタファクス通信によると、廃止法案はミロノフ上院議長らが中心となって今月二十三日に提出した。提案理由として、毎年のサマータイム移行後の二週間に、救急車の出動要請が12%増え、心筋梗塞(こうそく)による死亡も増加していると指摘。サマータイムは健康悪化を招いていると結論づけた。

サマータイム ロシアで廃止法案 「健康悪化」を主張 成立困難 - 北海道新聞

この観点でもいいとこなさそう。

労働時間が延びる?

あとよく言われるのは労働強化の議論。日中の時間が延びるから、その分、余計に働かされるんじゃないかと。これはある。かなりある。
というのも、先ほどの日の出・日の入時間の表を見てもらえばわかるけども、全国的に日の入時間はそう変わらない。ということは、サマータイムの効果として、全国的に日が暮れる時間を遅くするという効果はある。夕方でも明るいという効果は発揮される。であるならば「明るいんだから、まだ働けや」になる可能性は高い。特に日が暮れると商売にならん職種(建築現場とかね)は該当。作業可能時間が単純に延びるのでね。この可能性はかなりありうる。

サマータイムは意味がない?

となると、やっぱりサマータイムは意味がない。効果はない反面、デメリットはしっかり発生しそう。やんない方が良さげ。
……じゃ、サマータイムを導入する余地はないのか。ある。効果を出したいなら、一応方法はある。

全国一律でやらない

全国一律でやろうとするからダメ。日本は東西に長い国土である以上、一律では意味がない。単純に考えて、北海道と沖縄で同じサマータイム制度を導入することが間違い。北海道でメリットがあっても、沖縄ではデメリットになる。
ならば、北海道だけでやればいい。効果がある地域だけやればいい。地域と効果のバランスを考えて導入すればいい。

道州制とのセットが有効

その場合は道州制とのセットが有効だろうね。道州ごとに決める。道州によってはやらなくてもいいだろうし、1時間刻みじゃなくて、30分にするというのもアリだ。

但し、手間に堪えられる?

でも面倒くさい。第一、国内に時差があるってのは厄介だ。北海道と沖縄で時間が違うというのはめんどい。まして30分刻みなんてさらにめんどい。時計やコンピューターの時刻設定をいじらなきゃならんし、余計なトラブルのタネ。ある程度地域ごとにサマータイムのあり方を変えないと、サマータイムの効果は発生しない反面、その分、キッチリ面倒くさくなる。

やっぱやらん方がいい

ということをつらつらと考えていくと、サマータイムの導入には何のメリットもないことがわかってくる。やる意味ねえ。現状維持でOK。現状を変える合理性がないし、変えたところでメリットが発生しない。
目新しいことやりたいのはわかるんだけどねえ。メリットがあるという証明を知りたい。……多分ないけどな。福田涙目。