(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

後期高齢者医療制度たとえ話

「♪ぼうやー、良い子だネンネしなー……♪」
むかーしむかし、あるところに、それはそれはお酒の好きな人たちが住む村がありました。
その村の真ん中には一軒の居酒屋。村人は一日働いたあと、毎日のようにその居酒屋に集まり、飲み、語るのでした。
また居酒屋の店主はとても気前のいい人。村人がどんなに飲んでもツケ。「あとでいいよ」が口癖のおっとりとした人。村人も安心して飲んでいました。
ある日、いつものように飲んでいると、年輩の村人が居酒屋の店主に言いました。
「おーい、オヤジー、お金払うよ。今日は払っていくよ」
「なんだなんだ急に。どうしたんだい?」
「いや、もう来れなくなるんだ。60になるだろ。隠居するんだよ、隠居」
「そうかそうか。そりゃ今までご苦労さん。じゃ会計だが……よし、1万円でいいよ」
「え?そんなに安くていいのか?」
「いいよいいよ。足りなければ他のヤツらからとるさ」
「ありがとな、ここでの酒は楽しかったよ。ありがとうオヤジ!」
「それとな……明日からはタダでいいよ。だから飲みに来てくれ」
「……なんでだ?」
「年よりはいたわれって言うじゃねえか。おまえさんの飲み代くらい若いヤツが払ってくれるさ」
「何から何まですまねえなあ」
気前のいいオヤジさん。今までのツケを適当に精算した上に、「世代間の助け合い」を合言葉に、60歳以上の飲み代はタダにすることにしました。
……その村に数十年の時が流れました。村はすっかり様変わり。高齢化が進み、若者は減りました。
居酒屋に来るのは会計がタダのお年寄りばかり。
「どうするんだよ、オヤジ!」
居酒屋でも代が替わりましたが、問題が起きていました。
「全然ツケの額ともらった額が合ってないじゃんか」
二代目はお金の計算が得意な村一番の秀才。計算すると、どうにもこうにもツケと回収額が一致しません。
「……ま、あれだ、みんな代々飲んでるんだから、足りない分はみんなからもらえばいいじゃないか……な?」
「みんなからって言ったって、誰からもらうんだよ。店出るとき金はもらったんだろ。なんでそのときにきちんともらわなかったんだよ」
そうなのです。適当にみんなから1万円だ2万円だとやっていたために、本当のツケの額と実態が合わなくなっていたのです。
「このままだと潰れちゃうぞ。そうなったら村人の楽しみがなくなっちゃうんだぞ。それでいいのかよ、オヤジ!」
「……仕方ねえ。若い連中からとるしかねえなあ」
オヤジさんはツケ帳を手に村の若者の家を周り、ツケの請求をすることにしました。こっそりと1割増で。
もちろん若い村人は不満でしたが、何しろ自分たちが飲んでいる代金ですし、目の前にいる父親たちの代が飲んだ代金でもあります。
「世代間の助け合い」
この言葉に逆らうわけにも行きません。渋々ではありますが、みんな払います。
二代目は何とか現金が入り、店の経営もなんとかなる目算がついたので安心しました。
……さらに時が流れました。居酒屋の初代も亡くなり、二代目の時代になりました。
お店の経営はいよいよ怪しくなってきました。何しろ初代が亡くなり、ツケの全容を知る人がおりません。
「もうダメだ……」
二代目は経営継続を諦め、村長に相談しました。
「もう店をたたみます。続けていけません」
「待て。それは困る。村唯一の楽しみじゃないか」
「しかしお金が……」
「お金か……それなら、今まで散々飲んだ連中に払わせればいいじゃないか。大体あの代が現役のときに飲み代を十分に払わなかったのが悪いのだろ?」
「確かにそうです」
「しかも今もタダ酒飲んでる」
「それもそうです」
「よし、私に任せておきなさい」
次の日、村の中心にはひとつの高札が出ていました。

後期高齢者飲み代制度

  • 75歳以上は足りない分の酒代を毎月払うこと。
  • お年寄りのタダ酒廃止。収入に応じて料金徴収。
  • ツケ禁止。即金。

次の日、村長と二代目のところに、お年寄りの村人が殺到しました。

  • 助け合いの精神をなくしたか!
  • 年寄りは死ねと言うことか!
  • 会計はもう済んでるはずだろ!

しかし、お金が足りないことは事実。お年寄りから取らなければいけないことも事実。若者からはこれ以上とれないことも事実。
この村がこのあとどうなったか、誰も知る由もありません。めでたし、めでたし?