(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

いい洋画があれば洋画離れは起きない

本当に洋画離れしてんのかね?

わしゃ先日「ダークナイト」を見てきたばかりだけど、結構混んでましたよ。平日の14:45という真昼間の時間ながら、大入りでした。

なので「洋画離れ」と言われても、あまりピンと来ない。そこでちょっと調べてみることにした。……なんか、最近はこういう統計に絡んでばかりだな。ディベーターの悲しき性癖だ。

映画はレジャーの中では明るい

まずはレジャーとしての映画から。洋画限定の話をする前に、映画産業として全体を。あとせっかく買ったので、「レジャー白書」をもっと使いたい。5,000円分使い倒さねばならんのだ。うう。
結論から言えば、映画産業は決して斜陽産業ではない。明るい。日本のレジャーの中で数少ない好調な部門。1995〜1997年の平均と、2005〜2007年を平均すると、ほとんどのレジャーで参加率・参加回数・参加費用が減少しているが、映画はこの3点すべてを増加させている。

(「レジャー白書 2008」p.112)

種目 代表的種目名
2 「宝くじ」「映画」
3 「エアロビクス・ジャズダンス」「パソコン」「学習、調べもの」
0 -
1 スノーボード
22 「ジョギング、マラソン」「スポーツ観戦」「テレビゲーム」
20 「ゴルフ(コース)」「外食」等
7 「サッカー」「音楽会・コンサート」「遊園地」等
13 「釣り」「洋楽器」「書道」等

※参加率3%以下の種目を除いた、水準比較可能な種目のみ

68種目中、3点すべてで増加したのは僅かに2つ。

(「レジャー白書 2008」p.112)

6 47 31
62 21 37

ほとんどのレジャーで参加率が下がり、レジャーの絞り込みが進む中、映画を見る人は増えている。見る回数も増えているし、使うお金も増えている。他のレジャーに比べれば、相当マシな状態ではある。

スクリーンあたりの収益は下がっている

しかしながら、パイは大きくなってはいるものの、競争は激化している。量でなんとかカバーしている実態が次の統計から見て取れる。

この統計をもとに「1スクリーンあたりの入場者数」「1映画あたりの入場者数」を、先ほどのデータ同様に1995〜1997年と、2005〜2007年の平均値を出すとこうなる。

1スクリーンあたり 1映画あたり
95-97 70.6 212.9
05-07 53.0 206.7

(単位は千人)
1映画あたりは微減にとどめているが、1スクリーンあたりの落ち込みはかなりのもの。スクリーンと映画の本数を増やし、映画を見る機会を増やすことでなんとか人気を維持し、数値を上げている状況が見て取れる。
また、興行収入を元にした平均料金も、95-97年の1,249円に対し、05-07年は1,228円。レディースデーや各種クーポンでの値下げで客を集めている状況が垣間見える。それでも、平均料金が減っていながら、トータルでの収益が増えているということは、映画料金の値下げ分を物販で補い、取りかえしているからなのだろう。ドリンクやポップコーン、パンフレットや携帯ストラップが意外と侮れないのかも。シネコン型は意外と機能しているのかも。
というわけでこうしたデータを見る限り、こういうことが言えるのでは。

  • 映画産業は基本的にはうまくいっている。
  • しかしそれはスクリーン数の増加に伴う規模の増加である。
  • スクリーンあたりの収益率は大きく下がっている。
  • スクリーン数の増加と、料金引き下げで集客しているのが実情。
  • 但し、料金の引き下げは物販で回収している。

物販で回収できない古いタイプの映画館の行き先が気になるけどね。ジリ貧。客集まらん、値下げしたら利益が減る。それを回収する術がない。……厳しそう。

問題は作品の質では?

さて、こういう認識をベースに本論へ。洋画離れの話。まずは2007年までを分析。再びこちらのデータを。

これを見る限り、確かに洋画離れは進んでいるように思える。1986年以降続いていた洋画優位の時代は2006年に終わった。邦画の復活は顕著で、興行収入やシェアからもそれは明らかに見える。しかしながら、映画1本あたりで見るとどうなるだろうか。邦画・洋画の1本あたりの興行収入を出してみた。

邦画 洋画
2000 192.7 321.9
2001 278.1 349.6
2002 181.9 413.5
2003 233.9 406.4
2004 255.0 389.0
2005 229.7 310.3
2006 258.9 235.1
2007 232.5 257.6

(単位は百万円)
確かにひどい。凄い落ち込みだ。邦画は2億。洋画は3億。大体これで推移してきたわけだが、2006年の落ち込みはひどいし、2007年の回復幅も小さい。

20世紀フォックスやワーナーなど洋画大手5社の今年1月〜7月の興行収入累計が昨年同時期の約4割減の大幅な落ち込みを記録した。

http://sankei.jp.msn.com/entertainments/entertainers/080822/tnr0808222107010-n1.htm

この悪い2007年の数字から4割減らしているわけで、これは確かに「洋画離れ」と言いたくなる気持ちはわかる。邦画は本数が増えても、1本あたりの数字が落ちていない。収益性を保っている。しかし洋画は本数が増えた分の数字が上がっていない。とても好対照な結果。
ここでひとつの疑問を持った。「もしかして、映画そのものの質じゃないの?」と。邦画は本数が増えても1本あたりの興行収入が減っていない。それは本数が増えた分だけ、ヒット作も出ているということだ。では洋画は? ということで、先ほどの統計ページから2000年以降の興行収入10億円以上の作品数を調べ、30億以上・50億以上・70億以上をより分けてみた。

邦画 洋画
2000 18 3-0-0 30 3-1-1
2001 15 5-0-1 30 6-2-1
2002 17 1-1-0 31 4-0-7
2003 18 3-0-1 29 5-3-4
2004 20 3-0-2 31 3-2-4
2005 26 6-0-1 39 4-3-2
2006 28 4-4-2 22 2-2-3
2007 29 6-1-1 22 5-1-3

このデータでも2006年で邦画が逆転。30本前後で推移していた洋画が、急に22本に転落している。とはいえ、30億以上のスマッシュヒット数は変わっていない。「5-9-11-12-9-9-7-9」と大ヒット作は相変わらず出ている。邦画にシェア逆転を許した2006年でさえ「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」「パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト」の2作が100億円以上を稼ぎ出し、「ダ・ヴィンチ・コード」も90億。「ナルニア国物語」「M:i:III」も50億円以上のヒット。ヒットした作品は徹底的にヒットしている。なにもこれまでとは変わらない。
しかしながら、この表を見ても一目瞭然。10億円以上を稼ぎ出した作品数は減っている。つまり問題は幅広くヒットが出ないこと。「洋画」というジャンルの問題というより、ごくごく単純にヒットする作品を上映していないからではないか? 作品の質の問題ではないか?

字幕離れではない

これまでのデータを見る限り、少なくても、この分析は間違っている気がする。

大手の一社、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントでは「DVDの低価格化に加え、吹き替えの海外テレビドラマに慣れた若者が、字幕の洋画を嫌っているのでは」とみている。

http://sankei.jp.msn.com/entertainments/entertainers/080822/tnr0808222107010-n1.htm

字幕を嫌っているのなら、洋画の大ヒット作も減っているはず。また、字幕に問題があるのなら、こんなに極端な洋画離れに見える現象は起きない。字幕嫌いが同時多発的に突如出現するとは思えない。よく言う「ゆとり」が問題だとするならば、その「ゆとり」世代がいきなり映画を見るようになったり、大挙して見始めるわけがないので、そうした要素が原因であれば、もっと変化は穏やかであるはずだ。
つまりいわゆる「洋画離れ」は字幕の問題ではない。字幕の問題では大ヒット作が減っていない事実や、急激な変化が起きている現実を説明しきれない。理由は他だ。他にあるはずだ。

2007年の洋画が出来すぎ?

さて、ここでやっと今年、2008年の分析だ。何故2008年の洋画は落ち込んでいるのか。

このランキングを使用し、初登場の週にベスト10入りした映画数と、それぞれの初登場順位別に数えてみた(2008年1月8日付〜8月19日付)。

邦画数 主な作品 洋画数 主な作品
1位 9 崖の上のポニョ」「花より男子ファイナル 7 ライラの冒険」「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国
2位 4 陰日向に咲く」「チーム・バチスタの栄光 5 ダークナイト」「ハムナプトラ3」
3位 7 隠し砦の三悪人」「クライマーズ・ハイ 5 ランボー 最後の戦場」「ハプニング」
4位 4 「映画 クロサギ 4 「ベガスの恋に勝つルール」
5位 2 「砂時計」 5 「カンフーパンダ」
6位 7 築地魚河岸三代目 4 「ドラゴン・キングダム」
7位 5 スカイ・クロラ 3 「ミスト」
8位 1 「ダイブ!!」 5 「シルク」
9位 0 - 4 「モンゴル」
10位 1 百万円と苦虫女 1 ブラックサイト
合計 40 平均順位:4.0 43 平均順位:4.7

全般的に洋画はバラついている。8位・9位の多さが邦画と比べると際立つ。邦画は8位以下が2つしかなく、ベスト10に入った40作品中、半分の20作品がベスト3入り。この差は平均にキッチリ現れております。
ちなみに2007年で同じように調べてみるとこうなる(2007年1月10日付〜8月21日付)。

邦画数 主な作品 洋画数 主な作品
1位 7 愛の流刑地」「東京タワー」 8 パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド」「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団
2位 7 西遊記」「大日本人 6 レミーのおいしいレストラン」「300」
3位 3 「アンフェア」憑神 5 「バベル」「シュレック3
4位 4 眉山 4 ロッキー・ザ・ファイナル
5位 0 - 5 ハンニバル・ライジング
6位 2 それでもボクはやってない 2 「GOAL!2」
7位 5 「さくらん」 2 「サンシャイン2057」
8位 7 蟲師 2 「ラブソングができるまで」
9位 5 しゃべれどもしゃべれども 1 「女帝」
10位 4 あなたを忘れない 1 「主人公は僕だった」
合計 44 平均順位:5.3 36 平均順位:3.8

むっ。なんじゃこの異様な洋画の好成績。これはこれで出来すぎな気がしますな。なんせ10億円以上の興行収入を上げた洋画22本のうち、この集計に漏れているのはわずか2作(「バイオハザード3」「ボーン・アルティメイタム」)。8月までに過度に集中しとるので、これと比べるのはキツい。2008年のデータを見るに、映画の質そのものが下がっている気配はあるものの、出来すぎだった2007年と比べるのはキツい。
それに、残りの4ヶ月で帳尻を合わせる可能性はある。2007年同時期の邦画はご覧のように芳しくない。が、「HERO」「ALWAYS 続・三丁目の夕日」「恋空」という大駒が3枚も控えてたわけだ。「クローズZERO」も「エヴァ」もあった。洋画だってそういう展開にならないとは言い切れない。

結論

  • 「洋画離れ」は2006年を境に確かに認められる。
  • 但しそれは「字幕離れ」とは言い切れない。字幕離れではいくつかの現象を説明できない。
  • 洋画の大ヒット作は減っていない。
  • 減っているのはヒット作。長打は出ている。短打が出てない。
  • 内容次第では大ヒットする。ということは、問題は映画を巡る環境ではなく、映画の質それ自体。
  • 2008年の数字は芳しくないが、比較対象の2007年が異常値であるためやむをえない。
  • 評価は年を終えてみないとくだせない。
  • 洋画回帰は作品次第で十分起こりうる。

こんなところではないでしょうか。いい洋画がたくさんあれば、洋画離れしないと思うよ。いい映画が増えたから邦画は復活したわけで。単純にそういう問題じゃないかな。問題を外部に求めるのはラクなんで、みんなそうするんだけど、問題はもっと根源的で本質的なところにあると思う次第でありました。