(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

宴のあとのメンタルヘルス

テンションに波がある人。躁鬱の気がある人。気分にムラがある人。そういう人にとって怖いのは、実はもの凄く楽しいひとときを過ごした直後。心から笑い、心からスッキリし、心から充実感を味わった後。その後が一番怖いのです。落ち込みやすい。
底の見えない暗闇に足を踏み入れ、ひたすら落ちている感覚。底はどこだろう。いつ? もしかしてどこまでも落ちていくの? もう上がれないの? 深い深い漆黒の暗闇。光が届かない、光が見えない。さっきまで見えてた光はどこ? 何故自分はここにいるの? もうダメなの?終わりなの?
成功体験なんかも意外と落とし穴が待っているものです。うまくいった。できた。やれた! しかしその直後に闇がやってくる。うまくいかない。できない。何もやれない! どうしたというんだ。何が起きているんだ。原因がわからない。どうしたんだ、自分。そしてどうすればいいんだ。どう動けばいいっていうんだ。
こうなる原因を端的に言うと、気分的落差の大きさです。通常時より楽しい・おもしろい・充実した時間を過ごしたからこそ、その上がった状態から通常の状態に戻るとき、気分は大きく下がります。楽しければ楽しい時間を過ごすほど気分が上がる。だからこそ気分は結果的に下がる。「上がれば下がる」という当たり前の法則がここにはある。
いわゆる「ブルー・マンデー」なんかもこうした現象です。平日が続いている限り、日々の勤務に支障はない。今日と同じように過ごすのみで、あまり違和感を感じない。けれども、間に休みを入れた途端、次の出勤が億劫になる。日曜日という休日を挟むと、休日ではない月曜日がもの凄く負担に感じる。休んだことによって働く意欲が増すどころか、かえって勤労意欲を失うことがある。楽しい休日を過ごせば過ごすほどこの傾向は顕著です。楽しい休日と勤務の対比により、それまでできていたことが、とんでもなく重い負担に見えてしまう。
あまりにも楽しいと、普通の状態がつまらなく見える。あまりにも成功すると、普通の状態が失敗に感じる。プラスの状態からゼロに戻っただけなのに、あまりにも下がり方が大きいと、ゼロを突き抜けてマイナスになったように感じる。状態が良ければ良いほど、かえってマイナスの感覚は強まる。実際はマイナスでもなんでもないのに。ただゼロになっただけなのに。
そしてこういう心理は人に理解されにくいものです。

  • どうしたの?
  • なにがあったの?
  • 昨日はあんなに楽しそうだったのに。
  • これだけうまくいってるのに。
  • 何が不満なの?

周りは悩みの原因がわかりません。唐突な落ち込みの理由がわからない。一般的に気分はなだらかな変化として受け止められがちで、急激な変化をしないと思われています。そのため、物凄く楽しい直後に、物凄く落ち込むという心理が理解されない。成功した後の失敗という感覚がわからない。「昨日は楽しかったね」という会話が普通に成立するものだと思われている。
ところが実際には急激な心理変化が起きる。宴のあと、祭りのあとほど寂しい。心にポカーンと大きな穴が開く。そこに入り込むのはネガティブな心理。宴が楽しければ楽しいほど、心に開く穴は大きく、そこに入り込むネガティブな思いは強くなる。

  • 昨日は楽しかったのに……
  • 今日はまったくつまらない。
  • つまらないのはオレのせい。
  • オレが何もしないからだ。
  • 昨日だってオレがいない方がもっと楽しかったんだ。
  • すべてオレが悪いんだ。

こういう形で、ときには楽しかった経験すら疑う。疑心暗鬼。自己否定。そしてその心理を理解できない他者を拒む。人間不信。理解されない孤独感。そしてその孤独感が次なる落ち込みを招く負のサイクル。良かった後ほど怖い。「好事魔多し」とはまさにこのこと。
しかしよくよく考えれば何も落ち込むことはないのです。

本質は変わっていない

昨日に比べて今日がつまらない。この感覚は比較で考える以上は当然のものですが、比較は比較であって、絶対値ではありません。あくまで相対的なものです。

物凄くつまらない非日常ではない

昨日に比べて楽しくない。これは事実なんでしょうが、ではそれがマイナスかというと、そうではない。ごくごくありふれた日常に戻ったということだし、物凄く楽しい非日常が終わっただけのこと。物凄くつまらない非日常になったわけではありません。

マイナスになっていないんだ

そういう意味で、基本的にはゼロの状態に戻っただけで、決してマイナスになったわけじゃありません。あくまでも元通り。プラスが終わり、ゼロに戻った。それだけのこと。

錯覚という自覚を持つ

楽しかった直後にくるネガティブな感覚は、基本的には錯覚です。あなたは変わっていない。変わったのは相対的な感覚であり、気分的なものさしの基準。楽しかった経験が、あなたの心のハードルを上げているのです。

水を飲んで、深呼吸して、遠くを見て

落ち着いてみましょう。水をコップにゆっくり注ぎ、肺の細胞ひとつひとつに酸素が行き渡るように深呼吸。そして何でもいいので遠くのものを見てぼんやりしましょう。

  • 昨日と今日、何か変わった?
  • 自分自身は変化した?
  • 周りの人は変わった?

ゆっくり考えてみてください。多分変わってないことに気付きます。環境は変わってないのです。変わったのは感覚レベル。これがすっと腑に落ちるまでゆっくりしてみるといいと思います。
もちろん、これで解決しない場合は病院にかかるのが一番。眠れない場合はお薬もらった方がいいですし、専門のカウンセリングを受けるにこしたことはありません。大事なことは、自分が発する黄色信号に気付くこと。そして黄色信号が出るパターンを理解しておくこと。そうしておくと大ごとになりません。何事も早めの対処がいいのです。
これから秋の行楽シーズンがはじまります。心安らかに楽しい日々をお過ごし下さい。そして落ち込みすぎない日々をお過ごし下さい。