(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

長居させるのが店の心遣い

マナーの話に見えるけど、本質は立場の違いなんだよな。

そんな時間によく目にするのが食事を終えても熱心に、しかも楽しそうに話し込む子供連れ同士の主婦とおぼしき一団だ。私たちが席に着く前から座っていたのに、食事を済ませて店の外に出るまで席を離れる気配すらなかったりする。子供が飽きても、自分たちが飽きるまでは席を立つつもりがないのだろう。

http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/090207/acd0902070325001-n1.htm

これを「単なる愚痴」ととるか「よく言った」ととるかは、それぞれの価値観の問題ではある。

毎度おなじみの光景が繰り広げられているわけで。伝統芸の味わい。定番ですね。
でだ。こういう話はきちんと話を切り分けないといけない。当事者によって立場が違う。

長居する側

楽しく食事をしている。会話を楽しんでいる。誰だってそういう楽しい時間を長く続けたいと思うのが人情。

長居される側

早く食事したい。長居しているヤツが邪魔。「早く出ろや」と思うのが当たり前。
まあ当たり前の構図ですわね。あとはそれぞれどっちの立場に比重を置いて考えるかって話なだけで。長居する側が多い人は「しょうがない」と思うかもしれんし、長居される側が多ければ「マジ、困る」って意見になるだろうし。プラスアルファ、それぞれの常識観というかマナー意識というか、「自分ならこうする」という行動様式が絡んでくると。
ただ、もうひとつの視点も必要なわけで。

そもそも、どういう店なのか?

ある一定以上のレベルの店になると、本来は長居するのが当たり前なのですね。ハレの世界、リッチなひととき、豊かな空間を提供することも立派なサービスとして考えるので。「サッと食べて、サッと出る」なんて発想がない。文字通りの「ゆっくりしていってね!」の空間なわけですよ。言葉だけではなくね。
それはランチタイムだってそうなわけです。昼間でもそう。ある一定以上のレベルになれば、店を回転させるという発想は後回しになる。お客様に快適なひとときを提供する。これが優先になるので。予約しか受け付けない、一見さんお断りみたいな店には、少なからずそういう発想がありますからね。客数をコントロールすることで、大切なお客様に、大切な時間を過ごしてもらう。高いサービスレベルを維持するための努力。
こうした店にお客様が食べ終えた席を急いで片付け、そこに新たなお客様を入れ、席を回転させて利益を上げるっていう一般的な外食店のモデルは通用しないわけですよ。全然別物。違う世界のお話。なので、「長居が良いか悪いか」「他の客を待たせてまで長居していいのか」というのを議論する前に、実は「それが許される環境なのか」ってのは結構大事な前提条件になるわけですよ。外食店のレベル。価格帯と相関しますやね。ひとりウン万円とかの店で「2時間まで」みたいな居酒屋ライクな対応する店はありませんやね。ま、そもそも店に行列ができないけどさ。

じゃ、ファミレスはどうなの?

で、問題はここなんです。ファミレスはどうなのか。どういうレベルの店と考えればいいのか。
従来、ファミレスは居心地を売りにしていたことは間違いないわけですよ。低価格で、家族が安心して過ごせる高サービスのレストランを目指していた。ファミリーレストラン。だから「ファミレス」なわけでね。
コーヒーのおかわりもその一環。あれは長くゆっくりとした時間を過ごすためのサービスですよ。今では人件費節減のため、セルフのドリンクバースタイルが通常になりましたが、昔はいちいち注ぎにきた。「安価でフルサービスを」という考えが根底にあったのは確か。
また客も長居をする場所として認知しているのも確か。リンク元のコラムでは主婦が名指しされているけど、学生だって会社員だって、長居するところとして使っている。学生が勉強したり、会社員がパソコン広げて作業するのは見慣れた光景。別に主婦だけじゃないよね。誰だってそう使っている。
ということになると、長居する側・される側という立場に、実はもうひとつの立場があることが見えてくる。

長居される場所側

商売上は好ましくない。席が回転しない分、売り上げは減るし、待たせる人に不満を持たせてしまう。しかし、そういう「長居ができる」という点をサービスとして提供している形態であるし、現にそう認知されているし、認知されてから結構な時間が経っている。競合する企業も多数あり、競争も厳しい。
となると長居する側に文句も言えないわけですね。時間を区切った追い出しをしないのは、これが背景。長居してもらう場所というサービスを提供しているがために、店側はいかんともし難い。「待つ人も客・待たせる人も客」なのでありますが、「どっちをとるか?」という話になれば、現に席に座っているお客様をとるしかないわけです。そういうサービスを提供する商売ですからね。客を待たせるかわりに、一度席に座ったら追い出さない。このあたりの話というのはトレードオフ

彼女たちがストレスを発散させている間、待たされ続ける人たちのストレスがたまっていく。

http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/090207/acd0902070325001-n1.htm

一方でストレスが解消され、一方でたまるというのも正にそう。そしてファミレスは既に席に着き、ストレスを発散させる人を優先するという商売。そういう業態なんですよ、ファミレスって。

QSC&V

外食業界ではこういう言い方をするんですよ。日本ではマクドナルドが広めた言葉なんだけど。

シンプルにまとめるとこういうこと。

Q 品質 Quality:クオリティ
S サービス Service:サービス
C 清潔さ Cleanliness:クレンリネス
V 価値 Value:バリュー

わかりやすく言うと、品質とは味。サービスとか居心地。クレンリネスはきれいさ。価値とは割安感。味が良くて居心地が良くて、店がきれいで、尚且つ安い! こういうのがいい店だよねと。人気でるよねと。
安価で居心地がいいというのは、こうした「QSC&V」の追求のもと、生まれたものなんですね。マクドナルドが100円コーヒーのお客様でも大切に扱うのはこういうのが素地にあるし、ファミレスだって同様。そういうサービスと価格のバランスを志向してるんですよ。

混んでいるなら他の店に行けばいい

なので、個人的にはこう思いますね。世の中には混まないファミレスもあるし、ファミレス以外の外食店もあるわけで。

食事時間を少しだけずらしてもらうことはできないか。

http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/090207/acd0902070325001-n1.htm

お互い様ですしね。時間がかぶった以上は仕方ない。
世の中には「食べたらさっさと出てけ」で回転のいいお店もたくさんあるわけですし。それぞれの価格帯に応じたサービスの違いがあって、それによってオッケーな過ごし方がある。それだけの問題な気がしますね。価格に見合ったサービスレベルがあるってだけの話ですし。
マナーとか子どもの影響なんちゃらの話を絡めると、この話はややこしくなるので、このへんで。