※追記しました
景気が悪くなると、低価格帯の店が増えるんだけどさ。
さすがにちょっと行き過ぎて来ている気配があるよね。居酒屋業界。
これまでのキーワード
ザッとこれまでの大まかな流れを説明すると、
前回のデフレ不況下は「ホッピー」「立ち飲み」「サービス簡素化」ってキーワードで説明するとわかりやすい。従来の掘りごたつでゆっくりみたいなお店から、サッと寄って、サッと飲んでという転換。ありすぎたサービスを減らし、必要なものだけを残した店が増えていた。
ただ、これには一応新しさはあったんだよね。プリン体ゼロという健康志向と割安感からホッピーに、狭い土地の有効活用として立ち飲みに光をあてた。それまでにあまり注目されなかったものに光をあてたというわけで、戦略としては画期的な面はあった。既存の店と戦略的にぶつかることもなかったし。あくまで新店戦略で、既存店と競合しない手法だった。ビールがいい人や、座ってゆっくりという人は既存の店に行くわけだし。これまで出せなかった場所に店を出す方法を編み出したという意味で、実はプラスアルファの戦略だった。
その後、景気が良くなると従来タイプの店が増え、今度は「ブランド焼酎」「個室化」「過剰な元気」の流れになる。梅酒のラインナップが増えたのや、声を張り上げる店員が多い居酒屋が増えたのもこの頃。不況下で開発したホッピー・立ち飲み型はそのままで、既存店の高級化を進める。この時期は新店戦略じゃなくて既存店戦略。スクラップ&ビルド。売り上げが落ちてきた店のテコ入れ。手ごまのかさ上げが狙い。
で、今回の不況。散見するに「ホルモン」「料金均一」「サービスカット」がキーワード。低価格なホルモンを売りにする店が増えた。また鳥貴族が先鞭をつけ、他社はあまり追随しなかった均一路線に乗り出すところが増えてきた。
たとえばこんな感じで。
で、普通のおしぼりが紙おしぼりになる店が出てきた。注文に端末を使う店も増えてきた。基本は低価格高回転。安さが売り。そのかわりサービスは少ないよと。
終わりなき撤退戦
しかしここまで来るともはや「居酒屋って何なの?」的な感じになりつつある。低価格にするためにはコストを下げなくてはならない。そうなると人手も減らさなければいけないので、サービスはセルフ化されるし、一部カットされるし、注文を受けてられないので端末で、となる。
しかしそれだと「ファミレスとどう違うのよ?」という感じになる。居酒屋業態とレストラン業態の差がなくなって、差別化が難しくなってくる。いや、別に一緒でもいいんだし、そもそもバラバラである必要なんてないし、大まかに「飲食業界」で問題ないんだろうけども、しかし差別化できないと宙ぶらりんになって、あちこちから草刈場になるというのはファミレスがたどってきた道なわけでして。食事や飲み物の味を求めるのなら専門店。ファミレスは勉強したり一仕事したりする場所、って感じになってきたわけじゃないですか。
これと同じことにならんかねと。安さしか目新しさがなくなると、行き着く先は消耗戦。飽きては出し飽きては出しの繰り返し。客層も悪くなっていくだろうし、これまで「お酒を飲みつつ食事する」というニーズに居酒屋は真っ先に応えてきたわけだけど、そういうニーズの対象にならなくなる可能性がある。
居酒屋業界の戦略として、安い方安い方、チープな方チープな方を追い求めていくと、まともな酒・まともな食事・まともな雰囲気・まともな価格の客を手放すことになる。この客を手放すと、景気が上向いても戻ってこない。受け皿となる店舗がなければどうしようもない。前回の不況時ではまだそういう受け皿があったけど、どうも今回はそういう棲み分けがうまくいってない感じ。
また現実問題、中の人も疲弊してる。従業員の問題。コストダウンは人件費の削減に直結するわけで。人手を減らすのが最も手っ取り早いコストダウンの手法なわけよね。時間あたりのバイトを減らす。同時に固定給の人間の勤務時間を増やす。残業代を払いたくないので、どんどん出世させて管理職にする。定番ですわな。マクドナルドでは偽装店長はもう問題になったけど、ありゃマクドナルドが大きい会社だから目立つという側面があったわけで、あそこまで大きくないところでは今でも山ほどある話でして、ええ。退勤時間をもにょもにょとか。
まあ、だからこそ負担を減らすために端末なんかを導入するわけだけど、しかしそれにしても限度がある。好景気のときに育てた人材とかが何とかまわしているのが現実。で、ベテランばかりが鬼の形相でまわしているから、そこにはじめての人がポンっと入ってもついていけるわけがない。きついのわかっているから求人出しても日本人の応募は少ないし、入ってもすぐ逃げる。厨房は外国人ばかりなんて店舗はザラですよ。つか、彼らがいないともはやまわらないレベル。
カリスマ店長とか、カリスマ経営者が登場して夢を語ったり、あるいは従業員に大声で夢を語らせるという自己啓発セミナー的イニシエーションを導入して何とか持たせようとしても、現実的に数字が下がっている状況だと、さすがにモチベーションを保ちにくい。さすがに宗教じみてきて、それには付き合ってられないという内部的不満も結構あるもんだし。「いや、それはちょっと」と。
もう業態じゃやれない
ある意味、ファミレスにしても居酒屋にしても、「業態」というブランド戦略の限界なんだろうな。ブランドで店を出し、ブランドごとに統一する。同じフォーマットだからチェーンとしての規模の経済が働き、新規出店コストや仕入れコストを下げられるし、チェーンとしての信頼が得られるということだったんだろうけども、もうそれが通用しない。むしろブランドに合わせることで不都合が起きている。ニーズに合わせられない。ニーズを逃している。
本当はブランドをなくし、個別発想で店を展開するしかないんだろうけどね。屋号だけ一緒で、中身はバラバラ。店独自のメニューを認める。本部は各店の品質を担保する。独自メニューは認めるけど、本部の味見に通過しないとダメとか。今までは本部が所属店舗の方針すべてを決定し、各店がそれに従う「幕府システム」だったわけだけど、それをやめてみてどうかと。
プレタポルテからオートクチュールへの転換というのかな。一品モノへの転換。お仕着せシステムからお任せシステム。フリーカスタマイズ。
個人でやっているお店が比較的元気なのを見ても、業態の限界は明らかなんだけどね。続くうちはいいけど。新店が出せるうちは売り上げが増えているように見えるので、問題はないんだけどね。新店が出せなくなるときついよー。キャッシュフローがもにょもにょ。
あまりテンションの上がらない話になっちゃったな。たまにはということでひとつ。
追記(2009/08/12 4:20)
ブックマークのコメントを見ると、「屋号だけ一緒で、中身はバラバラ。店独自のメニューを認める。」という部分から「餃子の王将」をイメージされているようだけども、ちょっと違う。自分が考えているのは、もう一段階上の自由度。「餃子の王将」は確かに店長にメニュー構成などの裁量権はあるけども、あくまで餃子を中心とする中華料理屋というベースは変えられないし、店のつくりなんかはどこの店もそう大差ない。
具体的に自分が想定しているのは、ムジャキフーズのような形態。
ムジャキフーズでは「大将」と呼ばれる店長がすべてを決める。店のコンセプト・メニュー構成などすべて。
なので店の業態もバラバラ。ラーメンが主体ではあるものの、その他も結構ある。代表的なお店は「俺のハンバーグ 山本」。
こういう独立を前提とした経営戦略、そして自由度の高い店舗戦略もありじゃなかろか。