なんか凄いことになっとるな。衆院選。
小選挙区の当選者数によっては、比例代表での復活も含め候補者全員の当選も視野に入る。
http://mainichi.jp/select/today/news/20090822k0000m010148000c.html
全員当選とか……まさかだが、確かにありえなくはないと思わせる勢いがあるし、そういう情勢ではあるね。
しかし今回の話はこっちじゃないんだ。
ブクマコメンツの方。小選挙区制度批判が結構見受けられるんですよ。これについて思うことをば。
選挙制度に問題はあるの?
ブクマコメンツで見受けられるのは、このような極端な結果が出る選挙制度は良くないという論旨。だから小選挙区制度を変えようという意見がいくつかあるようで。ま、それはいいんです。小選挙区制度にはそういう特徴があるのは明白なので。
小選挙区制度は各選挙区からたったひとりの当選人を選ぶ選挙制度。1位だけが当選。2位以下は落選。どんなに票を集めても、1位になれない限りは落選*1。
なので、仮に候補者が5人いて、3:2:2:2:1だった場合、3の人が当選するわけです。3割の得票で当選する。残り7割は死票。どこの選挙区でも同じような支持構成であれば、同じように3割の支持を集めた人が当選する。300の選挙区すべてがこの例のような状態なら、3の人を出す政党がすべてで勝利し、300議員を獲得すると。こういうことになる。
そのため、全体から見て過半数以下の支持しかないのに、議員数で見ると過半数を大きく超えるという現象が起きるわけです。
(表1)第41回衆議院議員総選挙 党派別得票・獲得議席(1996年10月20日)
政党 | 得票数 | 得票率 | 議席数 | 議席率 | 席−票 |
---|---|---|---|---|---|
自民党 | 21,836,096 | 38.63% | 169 | 56.33% | +17.70% |
新進党 | 15,812,325 | 27.97% | 96 | 32.00% | +4.03% |
共産党 | 7,096,765 | 12.55% | 2 | 0.67% | -11.88% |
(表2)第42回衆議院議員総選挙 党派別得票・獲得議席(2000年6月25日)
政党 | 得票数 | 得票率 | 議席数 | 議席率 | 席−票 |
---|---|---|---|---|---|
自民党 | 24,945,806 | 41.01% | 177 | 59.00% | +17.99% |
民主党 | 16,811,732 | 27.64% | 80 | 26.67% | -0.97% |
共産党 | 7,352,843 | 12.09% | 0 | 0.00% | -12.09% |
(表3)第43回衆議院議員総選挙 党派別得票・獲得議席(2003年11月9日)
政党 | 得票数 | 得票率 | 議席数 | 議席率 | 席−票 |
---|---|---|---|---|---|
自民党 | 26,089,326 | 43.85% | 168 | 56.00% | +12.15% |
民主党 | 21,814,154 | 36.66% | 105 | 35.00% | -1.66% |
共産党 | 4,837,952 | 8.13% | 0 | 0.00% | -8.13% |
(表4)第44回衆議院議員総選挙 党派別得票・獲得議席(2005年9月11日)
政党 | 得票数 | 得票率 | 議席数 | 議席率 | 席−票 |
---|---|---|---|---|---|
自民党 | 32,518,389 | 47.77% | 219 | 73.00% | +25.23% |
民主党 | 24,804,786 | 36.44% | 52 | 17.33% | -19.11% |
共産党 | 4,937,375 | 7.25% | 0 | 0.00% | -7.25% |
現行制度になってからの衆院選、選挙区得票上位3政党のデータをまとめたのがこの表。過去4回とも自民党が300の小選挙区のうち、過半数を獲得しているわけなんだけども、得票率はいずれも過半数以下。トップであるボーナスを得て議席をのばしておりますですよ。
一方、2番手の新進党・民主党はやや損・あるいはやや得。3番手の共産党はメチャメチャ損とこういう結果。
ちなみに中選挙区制度ではどうだったかというと、こんな感じだった。
(表5)第45回衆議院議員総選挙 党派別得票・獲得議席(1993年7月18日)
政党 | 得票数 | 得票率 | 議席数 | 議席率 | 席−票 |
---|---|---|---|---|---|
自民党 | 22,999,646 | 36.62% | 223 | 43.64% | +7.02% |
社会党 | 9,687,588 | 15.43% | 70 | 13.70% | -1.73% |
新生党 | 6,341,364 | 10.10% | 55 | 10.76% | +0.66% |
小選挙区制度のような極端な偏りなく、概ね得票通りの議席数。小選挙区制度よりはマイルドな結果で、トップでないことの不利はそんなにない。3番手の政党でも、得票に応じた議席数を得られる。
つまり小選挙区制度ってのは、トップに有利で、トップになることでボーナスポイントが手に入る。その反面、3番手以下がエライ損をする。3番手以下が損をした分がトップに行くと。大雑把に言ってこういう特徴があるわけですよ、はい。
でだ。こういう特徴があることは、小選挙区制度が導入する前から指摘されていたことだし、小選挙区制度をとっているイギリスやアメリカの例でも明らかであったし、実際に日本でもそうなったと。だから、小選挙区制度に「極端な結果が出すぎる」という問題があることは事実で、それは否定しようがない。トップが過剰に有利で、3番手以下が過剰に不利になる選挙制度というのは明らか。
たださ、ここでひとつ別な論点があるの。
極端な選挙結果が出るとまずいの?
小選挙区制度は極端な結果が出る制度である。それは事実なんだけど、じゃ、それが悪いかどうかってところに別の議論があるわけで。「極端な結果が出てはいけない」を前提とするなら、今の選挙制度はダメな制度だということになるから、じゃ変えましょうかって話になる。でも、「極端な結果が出たほうがいい」ということなら、結論は逆になるわけだよね。極端な結果が出る今の制度はウエルカムで、そのままでいいじゃんという話になるわけだ。
つまり前提が違えば、デメリットがメリットにもなる。問題が問題にならない。むしろ利益になる。極端な結果が出るという制度の特徴が良いか悪いかは、何を目指すかによって変わる話。極端な結果が出るほうがいい場合だってある。
例えば、極端な結果が出ることで、政権が安定します。4割の得票で4割の議席ということであれば、過半数に足りないわけで連立を組まなければならないし、場合によっては少数与党になる。しかしこれが4割でも過半数の議席を得られるということになれば、単独与党という選択肢もあるので、少数与党のときよりは政権が安定しやすい。トップにボーナスを与えることで、より安定した政権ができやすいわけですよ。
一方でデメリットは、3番手以下が割りを食うわけで、少数意見が反映されにくくなる。小政党が国会議員を送り込むことが過剰に難しくなるわけですね。
でだ。話としてはこのどっちを重く見るかということなんです。大政党を有利にした方がいいのか、小政党を有利にした方がいいのか。それを制度としてどう考えていくのか。こうした前提を元に、選挙制度がいいか悪いかを考えたほうがいいと思うんですよ。
多数決型か、合意形成型か
ちょっと難しい言葉を使うと、多数決型の民主主義か、合意形成型の民主主義か。どちらがいいですか? ってことなんです。
多数決型はより賛成の多いものに決めていく民主主義。51:49なら51が選んだほうにする。49は51が選んだほうに従う。白か黒かの決め方。なので選挙制度なんかも小選挙区制度と相性がいい。その選挙区で一番支持が多かったものが代表となり、その代表者の過半数で物事を決めていく。
その分、政権構造はシンプルだし、決定スピードなんかも早い傾向があります。急いで物事を決めたいときは多数決をとればいいだけだし、多数決をとれば多数党が必ず勝つ。そしてその多数党をつくる上で、小選挙区制度は好ましいわけです。トップの政党にはボーナスが入るので、多数党が力を持ちやすい。
というわけなんで、多数決型を目指すならば、小選挙区制度の抱える特徴は問題にならないし、むしろ望ましいわけです。
一方で合意形成型の場合、白か黒か決めると限りません。時に決めない。共存する。選挙制度なんかも比例制度がいいわけです。得票率に応じた議席数を配分する。トップにボーナスを与えないし、死票もあまり出さない。少数意見を大事にする。過半数での決定を優先しないんです。
そのかわり、決定過程に時間がかかる。多数決での決定を必ずしもよしとするわけじゃないので。話し合って、満足行く結論が出るまで話し合う。これには時間もコストもかかるわけですよ。良く言えば慎重なんですけどもね。
でだ。こっちを目指すなら小選挙区制度はまずいわけですね。死票が多いし、得票率と議席率が一致しない。制度的に多数党ができやすい制度なわけですが、多数党を別に必要としないので、こういう結果をゆがめる制度は困るわけですよ。フェアでないと。
小選挙区制度というひとつの制度も、目指す民主主義のタイプによって良し悪しが正反対になってしまう。目指すものによって結論なんて変わってしまうんです。
あなたはどっちの民主主義がいいですか?
日本には多数決型か、合意形成型か。果たしてどっちの民主主義が合うのか。選挙制度を考える上で、これを是非とも考えて欲しいわけなんです。
もし多数決型を目指すなら、今の制度でもいい。むしろより極端にすべく比例部分をなくし、単純小選挙区制度にすればいい。さらに言えば参議院もいらない。衆議院の一院制でいいじゃないか……。
あるいは合意形成型を目指すなら、現行の制度を廃止して、中選挙区制度に戻す。あるいは単純比例制度にする。これなら政党の得票数が議席数に反映されやすい。参議院のチェック機能も大事にしなければ……。
こういう風に考えると、選挙制度とか、議院制度とか、国のあり方とかいろんなものがまとまって整理できるし、話に一本スジが入る。また一味違ってくるのかなあと。極端な結果が出るからダメなのではなくて、何故極端な結果が出てはいけないのかというところに思いを馳せ、その現象が日本にとって好ましいのか否かを考えて欲しいのです。選挙という政治を考える何よりのタイミングでもありますしね。
追記(2009/08/23 17:55)
比較のために中選挙区のデータ(表5)を追加しました。
*1:比例重複候補は除く