(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

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人工商売を越えろ

功罪相半ばする話ではあるけども。

良いところもあるわけで。

どこでも言われていることですが、人月の最も絶望的なところは「成果で価値を図ることが出来ず、猫も杓子もみんな同じ」になることです。初心者でもプロでも、同じ値段。

技術者の仕事を価値に変えるには、単価を超えるしかない。 - GoTheDistance

これはメリット・デメリット両方ある話。技術者の話に限らず、人工商売全般に言えること。いわゆる人材派遣はその典型。警備会社なんかもそうだわな。現場全体を仕切るような人間だろうが、端っこの方でぼーっと立っているヤツだろうが、警備会社は派遣した人間の数×単価で請求するわけだ。「その業務における効果」を考慮しないで売上額が決まる。
つまり人月単価の良さというのは、極論すれば「どうしようもないヤツの働きでも、請求するときは1人分」なわけですよ。そこに存在したという事実を証明できさえすれば、業務に対する貢献がたとえゼロでもお金を請求できるわけです。猫でも杓子でも、人間1人分として請求できる。もちろんその逆が「スゲエヤツの働きでも、請求するときは1人分」ではあるんだけどね。
なわけで、経営側としての発想的に人工商売を考えると、「できるヤツをどう生かすか」よりも、「できないヤツをどう金にするか」の方が大事なわけです。「できるヤツ」より「できないヤツ」の方が多く、同時に安く集められる状況であれば特に。
プロジェクト単位で考えれば、1プロジェクトを「できないヤツ」だけで回せるのが理想なわけです。自動化されたシステム、単純化されたマニュアルなどを事前に用意して。次にいいのが1人の「できるヤツ」が回し、残りは全員「できないヤツ」。またそうでなくても、限りなく「できるヤツ」の人数を減らし、「できないヤツ」を増やす。「できないヤツ」が多ければ多いほど、トータルの人月計算上はおいしいと。
人間を多数抱えるとともに、大きなプロジェクトを手がける大企業であればあるほど、こういう人工商売の発想をしやすくなるわけです。人間を多く抱えれば、それだけアレな人が内部にいる確率は上がるわけですし、大きなプロジェクトほど「できないヤツ」でも大丈夫な余地があるもんだしね。
しかしまあこの話は働く側にとってはたまらんわけですよ。「できるヤツ」ほど負荷が凄い。企業は企業で「できるヤツ」の給与をあげて、待遇を良くしたりして、その負荷とのバランスをとったり、ある種のマインドコントロール的なアレを使って「できるヤツに、できるヤツと思わせない」努力をしたりしますが、なかなか限界がある。それはやっぱり「単価の壁」があるからで、人工商売をやっている以上は越えられない。「単価の壁」は「できないヤツ」にとっては「誰であってもその額に到達する魔法のステップ台」になるけども、「できるヤツ」にとっては頭打ちの限界値。「1人あたりいくら」のビジネスをしている以上は無理。
となるとゲームのルールを変えるしかない。
例えば個人請負。人工商売ってさ、ピンハネ商売でもあるわけですよ。中抜きしとるわけですよ。相手先の会社からは12,000円もらうが、自社の従業員には10,000円みたいな。差額2,000円が懐にと。そういう商売をしとるわけですよ。
ということは、そこで雇用されているうちは、ピンハネをされること前提の単価になる。請求額が12,000円の場合、従業員の賃金Aは、

  • 12,000円 > A

となるわけです。請求額未満。
これを12,000円と同額、あるいはそれ以上もらうためには、従業員になってはダメで、請求側にまわらなければならない。請求額から中抜きされないようにする。そのための方法として個人請負はあるのかなあと。これは警備業者のほとんどが個人であることの理由でもあります。従業員を雇って派遣するんじゃなくて、自分を派遣しとるわけですな。
とはいえ、この方法でも相場の単価というものは越えられない。人工商売としての請求単価の壁は、どうやっても越えられないわけですよ。どんなに優秀であっても1人は1人。人間1人以上の価値はつかない。「1人が働く」という行為に対しての対価には限界がある。
となると話の流れとしては、労働としての対価ではなく、製品としての対価を模索するしかないのだなあ。労働に価値をつけず、出来上がったものに価値をつける。もちろんこれまでそれが出来なかったり、難しかったりするから人工商売でやってきたところが多いんだけども、人としての労働単価に限界がある以上は、労働単価を相手にしてはいかんと。製品単価で勝負する他ない。
それって1対多数の商売をするということでもあるよねえ。人工商売のうちは人を何かで働かせるという「1対1」の商売しかできんわけで、だからこそ1人分の請求しかできないんだけども、それを多数に変えることで掛け算の商売になる。
人件費もそれに合わせて、固定給よりも歩合給ということになるんだろうな。成功報酬というか。「生み出された利益のウン%」という話が自然なんだろうな。SIerに勤めたことがないので、内部でどうなっているのかはよくわからんが、プロジェクトの案件ごとの価格設定なんかも、本来そうなっていいものじゃないかのう。人間を何人かけようが、何時間かけようがその製作側企業の勝手で、製作依頼のあったサービスの基準をクリアして納品する限りにおいては、細かいことはどうでも良しと。
人材派遣なんかもそうで、派遣側が業務の規模や内容に応じて派遣する人員を差配するようになっていくはずだし、警備業なんかもそうなって行くんじゃないかね。現状はどこも派遣先に「○○に何人」と指示されて、その人数を出すのだけども、これって派遣する側の自由度を狭めてるだけだしな。そういうのまで自己判断するフルパッケージ型のモデルがそろそろ出てきてもいい。
単価を越えるには、人工商売を越えるしかないし、人工商売を越えるには、価格設定から利益判断、適正な人員配置までフルパッケージできる自分の頭と手足を持つしかないんじゃないか?