(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

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業務停止と書いて穏便な幕引きと読む - 6億円強奪事件

こんばんは、元警備会社の者です。

こういうニュースを耳にしまして。ええ。

警視庁によると、同社は警備業法で定められた警備員の研修を十分に行わずに警備業務に従事させたり、必要な帳簿類に不備があったりした。

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011071200375

まあ、よくある話ではあります。けど、この数字はちょっと大きいかな。

聴聞で都公安委は同社の警備員の23.2%に当たる117人が、警備業法が義務付ける新任時や半年ごとに行う教育を受けずに業務に従事していたと指摘した。

6億円強奪で警備会社「教育怠った」 現金輸送から撤退 :日本経済新聞

23.2%って具体的な数字が出ちゃうとねえ。
警備業法では警備業者に対し、教育を義務付けております。

新任教育はその社に“新しく入る”警備員全員(アルバイトも例外ではない)に受講義務がある法定研修であり、計30時間以上(基本教育15時間以上、業務別教育15時間以上)受けさせなければならない(これを修了しなければ勤務に就けない)。内容は法令と礼式(敬礼の仕方等)、行進や駆け足、誘導棒の振り方など。
ただし他社で最近3年間内に通算1年以上の警備員としての実務経験がある者、または警備業務検定・警備員指導教育責任者等の資格所有者については新任研修の減免措置がある。また現任教育は半期に一度、8時間以上受けさせなければならない。こちらも新任教育同様に資格所有者には減免措置がある。

警備員 - Wikipedia

新任が30時間、現任が半年に1回8時間。
でだ、このうち現任研修がどうしても漏れやすいのです。特にエース級ほど漏れやすい。お得意様から指名がある、現場を仕切っているような「できる」警備員を、半年に1回現場を外して研修を受けさせなければならないわけで。
人手が足りなければ研修は後回しになりがち。研修よりも現場。研修は金を産まないわけでして、ええ。現場に出せば1人工の売上があるけど、研修の場合は売上が立たないのに研修分の人件費が出るわけでして。
であるので、こうした教育体制に不備があるのは特に珍しい話ではございません。「23.2%」という数字は多いなあと思うけども、事実の有無という観点で言えば、驚く話でもなんでもない。
むしろポイントは、今回の6億円強奪という事件があったことに対してはお咎めなしというところ。営業処分の理由は、あくまで警備員教育という社内体制の不備であって、事件があったことに対する責任じゃない。

聴聞で浜野社長は「現金輸送業務は廃止したい」と話し、今後は工事現場の交通整理などに業務を限定して管理態勢を再構築すると話した。

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011071200661

事件を起こした現金輸送はさすがに出来ないものの、それ以外の警備業務は可能。
それに「現金輸送業務は廃止したい」って、いかにも自主的な会社判断とか、自粛みたいな空気を出しているけどさ、多分保険料の引き上げとか、あるいは保険自体の引き受けを断られたとか、そういう現実的な理由があったんだろうなあと思うわけです。

こんな感じの事業保険があるんですが、大抵の警備会社は加入している。
で、恐らく現金輸送部分に関して、保険でいろいろあったんだろうなあと。

被害

  • 2003年、多摩地区の各郵便局から現金を収集し東京中央郵便局へ輸送する3日の間、現金を積んだままの輸送車を新宿区内の駐車場に止めておいたため、車中から約1億5000万円が盗まれる窃盗事件の被害にあった。
  • 2008年12月13日午前10時頃、杉並区のJR阿佐ヶ谷駅前の路上パーキングに駐車中の現金輸送車から、約6900万円が盗まれる窃盗事件の被害にあった。
  • 2011年5月12日、立川営業所から約6億400万円が強奪される強盗事件の被害にあった。宿直の社員は1人だけで仮眠中であり、立川営業所の窓の鍵は半年以上前から壊れ、不審者の出入りを感知する警報センサーはスイッチが切られていた。また、本社に通じる警報の非常ボタンもあったが使用されなかった。盗まれたお金は郵便局会社のものであり、この事件の結果、郵便局会社との契約も解除された。
日月警備保障 - Wikipedia

2000年代に入ってから3回目だし。事故・事件があったら保険料が上がるというのは、自動車事故を例に考えても当たり前のこと。……ええ、身に覚えがありますとも。
「営業停止」という言葉にはインパクトがあるけども、実効性はかなり微妙。営業停止の対象は、恐らく現金輸送警備の部分にかかるはず。

第二条  この法律において「警備業務」とは、次の各号のいずれかに該当する業務であつて、他人の需要に応じて行うものをいう。
一  事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等(以下「警備業務対象施設」という。)における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
二  人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務
三  運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
四  人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S47/S47HO117.html

警備業法で言うところの三号業務が営業停止になるんだろうけど、その部分はこれから「廃止したい」という分野。

聴聞で浜野社長は「現金輸送業務は廃止したい」と話し、今後は工事現場の交通整理などに業務を限定して管理態勢を再構築すると話した。

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011071200661

一号業務、二号業務に注力すると元から決めているわけだから、日月警備的には無問題。
「6億円強奪」という大きな事件の割に、穏便な幕引きになりそうな雲行きであります。これで良いのか悪いのかは別として。

どうでもいい余談

30時間の新任教育の研修報酬は、25,000円前後が相場です。

何故かわかりますか?
25,000÷30=833.33

東京都最低賃金 821円

http://www.roudoukyoku.go.jp/wnew/t-toukyo.htm

821×30=24,630
あとはわかるな?