(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

シューマッハー=ジャイアン説を唱えたのはいつのことだったか

ちと古い話だけども、シューマッハーが現役引退を発表した。ほとんどの記録を塗り替えての引退。ドライバーとしてやり残したことは何もあるまい。年間チャンピオン、優勝、ポールポジション、ファステストラップ。この全てで歴代1位。これ以上何すりゃいいんだ、っていう成績だ。
思えばシューマッハーは、私が初めてデビューから引退までを見届けた伝説級のドライバー。衝撃のベルギーでのデビュー、ベネトンへの電撃移籍、ヒルとのチャンピオン争い、フェラーリへの移籍、そしてフェラーリでの栄光と、その全てをオンタイムで見たドライバー。それだけに殊更寂しいし、ひとつの時代の終焉を強く感じる。ONと共に巨人V9を見続けた巨人ファンが、長嶋茂雄引退の報に触れた心境と言えば言いすぎだろうか。
とはいえシューマッハーと私の関係は順風満帆とは言えない。私にとってシューマッハーは「癪に障る」「かわいくない」「むかつく」という言葉がついて周るドライバー。デビュー直後のベネトン移籍に伴い、お気に入りのロベルト・モレノベネトンから追い出されたことから始まり、若手らしからぬ堅実な走り、つまらないポールトゥウィン、ヒルにわざとぶつけたとおぼしきチャンピオン決定など、いちいち癪に障ることばかり。特にベネトン時代のシューマッハーは憎たらしいくらい強かった。強かったからこそ、アンチシューマッハーだった。
これが変わったのがフェラーリ移籍。当時のフェラーリは弱かった。本当に弱かった。今でこそそんな感じは微塵もないが、当時のフェラーリは中堅に成り下がった名門。アレジ・ベルガーが奮闘していたものの、たまに表彰台、優勝は年に1回あるかどうかというチーム。ルカ・モンテゼモロが社長に復帰したり、ジャン・トッドプジョーから移籍するなど、復活の土壌は出来つつあったが、今のような姿になるとは誰も想像できない。そのくらい弱かった。一時期の阪神と考えればわかりやすい。
それがシューマッハーの加入で目に見えて強くなった。ベネトンからロス・ブラウンロリー・バーンが加入し、マシンの戦闘力が目に見えて向上。当時はマクラーレンが一世を風靡し、ハッキネンクルサードが強さを発揮していたが、気がつくとそれに伍して戦えるようになり、チャンピオン奪還。今思うと、私はシューマッハーを見続けることで、一人のF1ドライバーの成功までの道のりと、フェラーリというチームの再興を見ることができたわけだ。
このあたりのシューマッハーは私にとって誰よりも好きなドライバーになっていた。そのわがままな立ち振る舞いから「ジャイアン」と名づけたのもこの頃ではあるが、そのわがままさえも味に思えるようになってきた。強すぎでも面白いドライバーになっていたというわけだ。
しかしここ数年、アロンソというドライバーが出現した。そしてシューマッハーに対して「アロンソに負けるな」という立場から応援するようになっていた。かつては最強であり、むしろ「負けろ」とさえ思っていたドライバーに対して応援する私。思えばこういう変化こそが引退の兆候だったのかもしれない。強すぎるからむかついたドライバーが、負けるなと思われてはいかんのだ。
であるからこそ、このタイミングでの引退は仕方なし。勇気ある決断と思う。史上最高のドライバーを見届けることができた幸運に感謝。ひとつの時代が終わった。