(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

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さらば世界最高の内また

完全燃焼だわなあ。お疲れ様でした。井上康生、引退へ。

シドニーの栄光から、今回の全日本選手権まで。井上康生の柔道は存分に見せていただきましたよ。どんな敵でも引っこ抜く、天下無双の内また。「一本で勝つ」「投げて勝つ」という日本の美しい柔道の体現者でしたよ。紛れもなく歴史に残る柔道家
しかし晩年がさみしかったのは否めないなあ。これは古賀稔彦なんかもそうなんだけど、あれほど決まっていた技が突然かからなくなる。何が原因なのか。いや、直接的な原因は多分ないんだろうけど、ある日を境に急にかからなくなる。
古賀稔彦も晩年はまったく一本背負いが決まらなくなってたし、井上康生も内またが決まらなくなった。内またをすかされて抑えこまれた最後の試合は、そういう物悲しさを示していたなあ。柔道家の晩年は切ない。名柔道家ほど切ない。
月並みな表現だけど、井上康生はナタの切れ味で、古賀稔彦はカミソリの切れ味だったわけだけど、両者とも突然切れなくなった。ナタとカミソリの違いはあれど、内またと一本背負いという違いはあれど、ケガにくるしみ、悩み、もがき続けた点で両者は似ている。一時代を築いた点も一緒。
やはりひとつの技に対するこだわりはもろ刃の剣なのかね。あまりに切れる名刀をもっていただけに、その切れ味が鈍ったときの対処方法がなかった。
一方、長続きしているタイプには、これといった必殺技のイメージがないタイプが多い。谷亮子はその典型だし、代表落ちしたとはいえ、野村忠宏もこういうタイプ。歴代最強との声も多い山下泰裕も、多彩な技の万能タイプだったしなあ。専門店よりもデパートの方がいいのかもしれない。
とはいえ、井上康生の内またには魅せられたんだよなあ。わかっていても決まる内また。備えていても決まる内また。期待したら期待通りに決まる内また。そこにカタルシスがあったわけで。結果的にそれが弱点となったとしても、そういう無骨な姿勢もまた魅力だった。
内またで世界を制し、内またに散った井上康生。美しく豪快な一本の数々。柔道好きは忘れないことでしょう。今後は指導者として、豪快な内またを繰り出す選手を育てて欲しい。古賀稔彦谷本歩実を育てた。井上康生もそうなって欲しいな。
井上康生の第二の人生に幸多かれ。本当にお疲れ様でした。