(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

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うどん記事を巡る大人の事情

麺類が好きなので、麺特集をやっている雑誌を見かけると、ついつい買ってしまう。

おとなの週末 2013年 03月号 [雑誌]

おとなの週末 2013年 03月号 [雑誌]

で、中でも好物のうどんのところに目が行くわけですが、こういう記述を見ると、編集者というか執筆者というかの大人の事情が垣間見えてしまうわけで、ええ。

菜「『かけ』(麺とツユの温冷が選べる)と『ざる』、『しょうゆ』、『湯だめ』しかありません」
釜たまも、ぶっかけもないのだ。
M「これはつまり、うどん自体に、とことん自信があるってことじゃないですか」
(『おとなの週末』3月号 15ページより)

これ、気付かない人は気付かない。スルーしてしまうところであるし、素直に納得する話だと思う。
が、うどん好きに言わせると、実は違う。

うどん自体に自信がある≠湯だめ?

麺自体に自信がある。この場合、うどんに限らず、シンプルに食べさせるもの。麺自体の味を強調するために、麺以外の味を減らす。つまり薄味傾向になるし、調味料は少なめになるし、簡素な味付けとなる。
うどんで言えば前述の「ざる」や「しょうゆ」がそれに該当する。うどんを茹でて締めて、それをダシにつけて食べる。あるいはしょうゆをかけて食べる。麺の味勝負のシンプルな食べ方。
ただ、ここに「湯だめ」が混じってくると話は微妙でありまして。

湯だめうどんというのは、一度茹でたうどんを締めて、それを再度温めたお湯の中に入れた状態で提供するうどんのこと。「釜揚げうどん」と混同しやすいメニューであることは、過去記事参照。
(参考画像)「長田in香の香」の釜揚げうどん

で、この湯だめうどん、ざるうどんや釜揚げうどん同様にダシにつけて食べる。その点で言えばシンプルな味付けで食べさせるうどんなわけで、「麺自体で勝負」というときの条件に該当するのだけれど、「麺自体で勝負」という際のシンプル性にはもうひとつあるわけで。

調理のシンプル性

調理工程。作り方がシンプルかどうかという視点がある。この視点で見たときに、「なぜ『釜揚げ』ではなくて『湯だめ』なのか」というのが当然の疑問としてあるわけです。茹で上げをそのまま出すのではなく、何故水で締めるのか。「麺自体で勝負」なら、どうして茹で上がりの、出来立ての麺で勝負しないのか。
そう考えると、冒頭の引用部における話っておかしいんです。

菜「『かけ』(麺とツユの温冷が選べる)と『ざる』、『しょうゆ』、『湯だめ』しかありません」
釜たまも、ぶっかけもないのだ。
M「これはつまり、うどん自体に、とことん自信があるってことじゃないですか」

何かがおかしい。

「釜揚げ」を出さないという選択

有力な仮説は、「釜揚げ」のうどんを出さないという選択の正当化。
実は釜揚げうどんや釜たまうどんって面倒くさいんです。茹で上げしか作れないものなので。
改めてうどんの工程を説明すると、うどん玉を作り、それを麺状に切り、茹で上げる。この茹で上げたものをダシにつけて食べるのが「釜揚げうどん」。玉子をのせ、しょうゆなりダシなりで味付けして食べるのが「釜たまうどん」。
そしてそれ以外のうどんは、一回水で締める。水で締めたのち、ダシをかけて食べれば「かけうどん」だし、かけるのがしょうゆなら「しょうゆうどん」。ダシ以外に具もいろいろある状態であれば「ぶっかけうどん」で、「釜揚げうどん」式に食べれば湯だめうどん。
で、セルフ系のお店の場合、水で締めたうどんは、専用の小箱かなんかに置いておき、注文があったらそれを使います。なので、茹で置きの麺があると、注文から間をおかずにすぐ出てくる。「はなまるうどん」とか「丸亀製麺」とかのパターン。
でも「釜揚げ」はそれが出来ないのです。茹で置きできないから。茹で立てオンリーだから。茹で置きの麺があっても、それを使ってはいけない。それを使ってしまっては、厳密な意味での「釜揚げ」ではなく、「湯だめ」だから。
となるとお店側としては、「釜揚げ」の注文が入るたびに、新規で麺を茹でなければなりません。どれだけ茹で置きのうどんがあったとしても、新たに茹でる必要がある。
またこれは客視点で言えば、茹で待ちが発生します。茹で上がり待機列が形成されるわけです。となるとお店の中にその導線が別に必要になるわけで、余計にスペースが店内に必要になり……と。
となると、うどん店の選択として「釜揚げはやらない」はアリなわけですよ。戦略として。面倒だし。客も待たせるし。ただでさえうどんって安いのに、回転落としてどうすんの? という考え方も一理ある。

うどんは出来立てがおいしい

しかしそれをあからさまに言うのもなあ……という心根とかもあるわけでして。茹で置きのうどんってのは営業上ラクなのですが、どうしても味は落ちる。うどんって生き物なので、茹で立て・締め立てはうまくても、時間が経つにつれてどうしても麺の歯ごたえとかがなくなり、味が落ちてしまうわけでして。
本来なら噛んだときに歯の力に逆らうような強い弾力を感じるような麺であっても、茹で置きだと力なく「ぶつっ」と噛み切れて終了とか。俗に言う「小麦粉の死体」状態の麺。
お店としてはできるだけおいしいうどんを食べて欲しいが、営業的な兼ね合いとかもあり、そのせめぎあいがある。ま、それが現実のところ。「はなまるうどん」なんかでも出来立てのうどんって本当においしいですからねえ。茹で置きでもそこそこおいしいと思いますが、出来立ては次元が違う。
そういうお店の内心でのせめぎあいに、お店をとりあげる取材上での利害関係というもうひとつの「大人の事情」が絡むと、冒頭に引用した記事ができてしまうんだろうなあと。そう考えた次第。
俺が気付いていないだけで、ラーメンとかもこういう大人の事情満載なんだろうな。なかなか本音とか真実は書けないものなのです。もっとも、こういう事情を知らず、素で書いていたとしたらもっと問題だと思うんだけど。そんなことは……ないよね。

さぬきうどん全店制覇攻略本2012-13年版

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