(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

若い人は海外旅行離れしてないよ

本当に若い人は海外旅行離れしてるのかな。

ここ最近ずっと言われて来たことですが、極めて由々しき事態だと思います。

若人よ、旅に出よ: 大石英司の代替空港

ホントかね?
オレはゼミの後輩にディベート教えている関係で、大学3年・4年を10年以上定点観測できる環境にあるんだけど、そういう変化を感じないんだよな。旅行離れしてる気配はない。世代による変化、時系列的な変化を感じないんだよね。

海外を旅する若者が急速に減っている。

http://www.asahi.com/national/update/0707/OSK200807070014.html

こんな記事もあるんだけどさ。でも、母集団としての海外旅行者は増えているわけで。

同時に若年人口は減っている。

トータルのパイが減っている中で、抽出する対象の若い人が減っているんだから、旅行者に占める若い人の割合は当然減ってあたりまえ。このあたりまえのデータをもって「海外を旅する若者が急速に減っている」とは到底言えないような気がするんだよな。データの読み方に論理の飛躍を感じちゃう。
そこでちょっと調べてみることにした。本当に若い人の海外旅行離れが進んでいるのかを。
まずはこちらで海外旅行客の統計を集める。

この中に「海外旅行者の性別・年齢階層別構成比率」があるので、まずはそれを収集。法務省とか国土交通省の孫引きデータだけど、両者のサイトは古いのがあまりないので、データの統一性ということで、ここんちのデータでツラを揃える。
次に総務省から人口推計のデータを。

これでデータ集め完了。あとはこれを使って計算。計算方法は簡単。各年の年代別の人口と海外旅行者数を弾き、割ってみる。そうすると世代別人口に応じた旅行者数がわかる。「何人に1人」という形で出る。で、これが少なければ少ないほど旅行好き世代。そういうことになる。
一応注意として、今回はザラッとでいいやということで、一部、割合の数値から人口とか旅行者数を割り出しています。なので完全に正確な数値とは言えません。細かい数字に興味があったら各自で調べてちょうだいな。そこまでは面倒なんでしません。大体でわかればいいものなんで。ザックリ計算。傾向がわかりゃいいんだよ、傾向が(スゲエ適当)。
なので割合なんかも合計が100%になるとは限りませんし、細かな誤差が発生しております。それを前提にご覧下さい。
まずは各世代別の旅行者数割合。

(表1)海外旅行者の世代別比率(%)

~9 10~19 20~29 30~39 40~49 50~59 60~
1993 2.2 5.3 28.4 18.4 19.3 15.3 11.0
1994 2.2 5.2 28.2 18.5 18.9 15.6 11.3
1995 2.3 5.3 27.7 18.9 18.9 15.4 11.5
1996 2.5 5.0 27.8 18.6 18.6 15.6 12.0
1997 2.7 5.3 26.9 19.2 17.4 16.2 12.3
1998 2.9 5.5 26.2 19.5 16.4 16.9 12.6
1999 3.0 5.5 24.9 19.7 15.7 17.8 13.5
2000 3.1 5.4 23.5 20.1 15.6 18.3 14.0
2001 3.2 4.9 21.9 20.8 15.9 18.8 14.5
2002 3.0 5.1 20.5 21.3 15.9 19.0 15.3
2003 3.1 4.5 20.1 22.6 16.8 18.6 14.2
2004 3.2 4.8 18.5 22.2 17.2 18.7 15.4
2005 3.2 4.8 17.7 21.9 17.8 18.9 15.6
2006 3.2 4.8 17.0 21.9 17.9 19.0 16.2
2007 3.2 4.8 16.3 21.2 18.6 18.4 17.5

これを折れ線グラフにするとこうなる。

ま、これを見ると確かに20代の右肩下がりは顕著。これを世代別人口で調整するとどうなるか。海外旅行者1人あたりの人口数を出すとこうなった。

(表2)海外旅行者1人あたりの世代別人口数(人)

合計 ~9 10~19 20~29 30~39 40~49 50~59 60~
1993 10.5 49.9 27.0 5.4 7.2 8.6 9.1 18.3
1994 9.2 42.7 23.4 4.9 6.3 7.6 8.0 16.3
1995 8.2 35.7 19.8 4.4 5.5 6.8 7.1 14.6
1996 7.5 29.6 18.7 4.1 5.1 6.4 6.4 13.3
1997 7.5 27.0 17.0 4.2 5.0 6.5 6.3 13.3
1998 8.0 26.5 17.0 4.6 5.3 7.0 6.7 14.2
1999 7.7 24.5 16.1 4.6 5.2 6.8 6.4 13.1
2000 7.1 21.6 14.6 4.4 4.7 6.0 5.9 12.0
2001 7.8 23.1 17.3 5.1 5.1 6.3 6.3 13.1
2002 7.7 23.9 16.0 5.2 5.0 6.1 6.1 12.6
2003 9.6 28.5 22.0 6.4 6.0 7.1 7.7 17.3
2004 7.6 21.6 16.0 5.3 5.0 5.4 6.0 13.0
2005 7.3 20.6 15.1 5.1 4.9 5.1 5.8 12.7
2006 7.3 20.5 14.7 5.1 4.9 5.0 5.8 12.2
2007 7.4 20.5 14.8 5.3 5.1 5.0 5.8 11.9

同じくグラフ化。数値が大きいところは省略。

2003年はSARSとかイラク戦争の影響で、データが大きく歪んでいるけども、それ以外はほぼ一定。特に21世紀に入ってからは「5.1→5.2→6.4→5.3→5.1→5.1→5.3」と5人台前半で安定しており、人口比の関係から、トータルでの割合は減らしているけども、20代の海外旅行熱が下がっているとは言えない。

海外を旅する若者が急速に減っている。

http://www.asahi.com/national/update/0707/OSK200807070014.html

これは到底言えない。「減っている」とまでは言えないし、ましてや「急速に」を読み取るのは不可能だな、この数字からでは。
むしろこのデータから次のことが読み取れるのでは?

勤労世代のライフスタイルには変化がない

グラフの下に張り付き、横ばいで推移しているのは20代〜50代。つまり勤労世代。ここに変化がないということは、勤労世代のライフスタイルの変化を指し示さないのではないか。これまで通り相変わらず人は旅行に行く。それだけのことでは。

ライフスタイルに変化があるのはティーン&リタイア世代

逆に変化があるのは10代未満・10代・60代以上の3つ。この3世代はどれも旅行熱が上がっていると考えられる。この世代はいずれも勤労世代じゃない。ということは、親が我が子に対し、子どもの間に海外を経験させようという意識が出てきたり、学生の間に海外へという意欲があったり、リタイア後の生活の中で海外に行く。こういうライフスタイルの変化があるのではないか。変化があったのは若者ではなくて、それよりさらに下の層、あるいははるか上の世代ではないのか。

改善する可能性は大きい

だとしたら若者の海外旅行離れどころか、実は熱は高まる可能性がある。10代は90年代より2000年代に数値を良くしてる。ということは、彼らの世代がリピーター化することで、それまでの世代より、海外旅行好きの割合が高まる可能性すらある。

中年になってからでも海外はいけるけれども、やっぱり若い内の海外体験というのは特別ですよ。

若人よ、旅に出よ: 大石英司の代替空港

これが本当ならば、その「若い内」が20代から10代に早まった人間が増えたおかげで、将来は明るいのかもしれない。世代別人口が減っているから、海外旅行客数という切り口では目立たないだけでは。
少なくても自分がチョチョイとまとめたデータでは、若者が海外旅行離れしているとはいえない。「変わらん」というのが結論。騒ぐことの問題はないですよ。みんな旅行好きですよ。

問題はこっちでは?

むしろオレはこっちに問題を感じるな。データ元である旅行業協会の統計ページ。この一言。

  • 2002年版

1996年と2001年を比べると、全体では20歳代が5.8ポイント減少しているのに対し、50歳以上は5.7ポイント増加している。20歳代の女性は依然として海外旅行の最大のマーケットを構成しているが、この5年間では8.0ポイント減少している。

http://www.jata-net.or.jp/tokei/004/2002/06.htm
  • 2003年版

2002年と5年前の1997年との構成比を比較すると、20代の減少、特に20代女性の減少が目立ち50歳以上の比率が6ポイント増加している。

http://www.jata-net.or.jp/tokei/004/2003/06.htm
  • 2004年版

2003年と5年前の1998年との構成比を比較すると、20代の減少、特に20代女性の減少が目立つ。

http://www.jata-net.or.jp/tokei/004/2004/06.htm
  • 2005年版

2004年と5年前の1999年との構成比を比較すると、20代の減少、特に20代女性の低下が目立つ。

http://www.jata-net.or.jp/tokei/004/2005/06.htm
  • 2006年版

2005年と5年前の2000年との構成比を比較すると、20代の減少、特に20代女性の低下が目立つ。

http://www.jata-net.or.jp/tokei/004/2006/06.htm
  • 2007年版

2005年と5年前の2000年*1との構成比を比較すると、20代の減少、特に20代女性の低下が目立つ。

http://www.jata-net.or.jp/tokei/004/2007/06.htm
  • 2008年版

2007年と5年前の2002年との構成比を比較すると、20代の減少、特に20代女性の低下が目立つ。

http://www.jata-net.or.jp/tokei/004/2008/07.htm

よくもまあ7年も連続で同じようなことを書くよね。問題点わかってるんなら手をつけなよ。7年も前に問題に気付いておいて、7年連続で「20代の減少、特に20代女性の低下が目立つ」ですか。
……でも7年も続けば、そいつらもみんな年をとり、30代になっていくわけで。何故か30代の問題にはならんのだなあ。……ホワイ?
このあたりの不思議さが解消されないかぎり、「若者の海外旅行離れ」という話には乗れないね。どうみても単なる若い人叩きです。本当にありがとうございました。

*1:「2006年と5年前の2001年」の誤植と思われる