(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

お客様を知るためのマニュアル作成

マニュアルを書くのはオススメ。プログラムの世界以外でもかなり有用だよ。

設計書に書かれた処理の手順なんてのを読んでも機能についてピンとこないが、
ユーザーマニュアルなら分かる。
なぜなら、分かるように書かなくてはならないからだ。
分かりやすくなくては、マニュアルの存在意義に関わる。

設計書よりもユーザーマニュアルを書こう! - レベルエンター山本大のブログ

こういう要素があるからこそ、書き手にとっていいトレーニングになるんですよ。取り組んでいることへの理解が進むし、ポイントの整理ができる。そして顧客の要望とか、需要なんかをつかみやすくなると思うんですよね。

読む人はプロではない

基本的にですよ、マニュアルというのは説明書なわけですよ。単純に考えてね。でだ、説明書が必要な人ってのは、使い方がわからないわけですな。知識がないわけです。知識がないから説明がいるわけですよ。どう使えばいいんだろう。教えてちょうだいよと。わからん人が読むものが説明書。わかってりゃいきなり使うわけなんで。

書く人はプロ

ところがですな、その製品とかサービスを提供する側ってのは、つくる側なわけで、メチャメチャ詳しいわけです。プロなわけですよ。専門家なわけですよ。何せつくった張本人なわけで。知らないわけがない。
となるとここでミスマッチが起きるわけです。

  • 読み手……素人
  • 書き手……玄人

簡単に言えばこういう構図。どうしても知識的にレベル差が生じる。
でだ。この差をどっちに合わせるかというと、読み手に合わせないといかんわけですね。お客様だから。顧客だから。製品やサービスを買う側だから。となるとマニュアルというものは、玄人の書き手が、素人の読み手のために書くものなわけですね。知っている人が、知らない人のためにつくるもの。で、そのマニュアル製作過程で、次のようなポイントが出てくるんです。

言葉を簡単にする・定義する

素人なんで、玄人が使ってる言葉なんて通じないのです。もう単語からして別世界なわけです。
例えば今でこそ「ダブルクリック」なんて言葉が一般的になりましたけど、本来、この言葉がマニュアルに出てきたらいかんわけです。何故なら、ダブルクリックという言葉が知らない層がマニュアルを読んでいる可能性があるから。まあ、経験者向けの製品・サービスなんかだと、そこまで気を使わなくていいケースもありますけど、一般的なパソコンのマニュアルレベルだと、ここからやらないといかんわけですよ。「マウスのボタンを連続して2回押す」と。また、継続して使うなら「これを『ダブルクリック』と呼びます」と定義せないかんわけです。
これはどの業界でもそうで、いわゆる専門用語がある。その世界にいる人間のみ伝わる言葉がある。しかしマニュアルを手にする人間は、ややもすると初めてその世界に踏み入れる人なわけですよ。その人向けのマニュアルが、専門用語で埋め尽くされているという時点で、マニュアルとしては不親切なわけですね。如何に一般的な言葉、広く理解されやすい表現に置換するかが問われる。

手順を説明する

次にその簡単にした言葉、定義した言葉を使って手順を説明するわけです。それも作業順に、段階を追って説明する。

  • A → B → C → D → E ………

とまあこんな感じで。現実には箇条書きになったり、章立てをわけて書いたりいろいろでしょうが、とにもかくにも順序立てて説明することになる。流れを説明することになる。
この場合、手前の段階の「言葉がわからない」じゃ手順の説明ができない。言葉がわからないのに、具体的な作業がわかるわけもありませんわな。「Aというファイルをダブルクリックしてください」とあっても、「ダブルクリック」がどういう行為かを理解できなければどうにもならんと。
また途中の作業がひとつでもわからなければ、その先の作業に進めないのでゴールもできない。Aができた、Bもできた。しかしCができなければDもない。Dに進めなければ当然にEもないわけですよ。
つまりゴールに至る全ステップを説明しきらないといけない。すべてわかるように記述しないといけない。抜けがあってはいけないわけです。単語も、具体的な内容部分も。単語という下地と、具体的な手順の両方を理解し、それを実践することで望む結果を得る。そういうレベルに持っていくことがマニュアルの意義なわけですのでね。

説明力がつく

するとですよ。自分より知識のない人に対して説明する方法を身につけることになるわけで、他人に対する説明力が身につくわけです。理解してもらう方法論というか、説明の段取りというかね。どうすればわかってもらえるか。そのための具体的な道具がマニュアルなわけで。説明力が否応にもつくわけです。

すべての手順を理解できる

同時に単語にしても手順にしても、抜けがあっては読み手は理解できないし、望む結果を得られないので、すべてを均一なレベルで噛み砕いてやる必要が出てくる。そうなるとすべてに目が行く。すべてに目を通す必要が出てくる。まして人に説明するということは、それを理解しなければならない。理解できていないものを、人に説明できるわけがない。簡易な言葉で、シンプルに、知識がない人でもわかるような言葉で説明するには、意外と深い理解が必要なんですよ。浅い理解、本質を理解できていない状態で、たとえ話なんでできやしませんからね。無理。
となるとひとつひとつの単語を洗い、手順を個別に深く理解する必要があるので、全体理解につながるんです。わかってないヤツがマニュアルを書けるわけがないんですよ。自分よりレベルが下の人を対象にする場合は特にね。「わかってくれるだろう」という期待ができませんから。読み手はわからないというのが前提なので。

「わからない」ことがわかる

より高度になると、「どうすれば良いマニュアルになるか」という発想になる。それは「わかりやすさ」の追求ですわね。マニュアルの意義ってのは「わかってもらう」ことにあるわけですから。繰り返しですがマニュアルとは説明書なわけで。説明力があるものが良いわけです。
そうなると最終的に行き着くのは「難しいのはどこだ?」「ポイントは何か?」「どこでつまづくのか?」という視点なんですね。わかりやすく伝えるための力点把握。読み手がどこで困るかという相手方の発想につながる。視点が変わる。実はここ大事。何故なら、基本的に次のことが言えるから。

「知識を得てしまうと、知識がない人が何がわからないかがわからない」

知ってしまうと、何がわからないかがわからんのですわ。「何でわからんの?」ということになってしまいがち。自分もその知識を得るまでは苦労したはずなんだけど、一度理解してしまうと、知らないときの気持ちに戻れない。何でわからなかったのかがわからない。

「わからない」がわからない

こういうことなるんです。素人と玄人の壁といいますかね。あらゆる分野であるんですよ。既知と未知の間には暗くて深い川が流れているんです。両者は決定的に違う。特に一度わかってしまうと、わからない側には戻れない。片道きっぷなんですよ。対岸に渡ってしまったら最後なんです。
なので、知識を得てしまった人間が、知識がない人はどう思うかって視点に思いを巡らす機会って貴重なんです。得がたい経験だし、大事な視点です。もう自分は失った視点だから。もう戻れない視点。その見方をあえてする。大事なひとときなんですよ。
そしてこの視点が決定的な財産を生むんです。

お客様を理解する

マニュアルの読み手の視点とは即ちお客様の視点。この視点でものを考えることで、お客様の思考が身につくんです。お客様が求めるもの、お客様が考えること、お客様の悩み。どこでつまづき、どこで不快に感じ、どこをありがたがるか。そういう感覚をつかむ契機になる。

顧客の本当の要求を知れば、同じ仕様に対するプログラミングも変わってこないだろうか?

設計書よりもユーザーマニュアルを書こう! - レベルエンター山本大のブログ

マニュアルをつくる過程で、顧客の要求を理解すれば、当然変わるはず。そして理解できれば、それを他の業務にフィードバックできるはず。それって貴重な財産だと思うわけよね。これぞノウハウなわけで。お客様を理解するって、これ以上ない市場調査でしょ。
なので、深く業務自体を理解できるし、お客様の理解もできる。こういう意義を考えるに、若手を育てたいときなんかは最適な役目だと思うのよね。マニュアル作成って。これだけ全体を俯瞰できる立場ってないし。また全体の作業をひとつひとつ細かく理解するチャンスもないし。なかなか意義深い。
あちこちの業種で試してみたけども、あらゆるトレーニングの中で、効果が高い部類に入ると思いますね。確実に作業理解は高まるし、マニュアルを書けるくらいの人間なら、人を教えることに長けた人間になる可能性が高いので、指導者向きになるし。
もちろん向き・不向きはあって、地味ながら着実にやり遂げるタイプが合ってますな。センス良く、チャッチャっと片付けるタイプは向かない。むしろ不器用なタイプにこそオススメしたい感じ。
マニュアル作成、かなりオススメです。