(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

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手形キャッシュバックシステム

昔、勤務していた会社での話。
とある大企業(上場級)への売り上げがありました。その大企業は、毎月決まった日付に取引先を集め、2割を小切手、残り8割を手形でという支払い形式。手形は180日手形、半年もの。支払日になるとその会社の会議室に取引業者が大挙して集まり、小切手・手形を受け取るというのが毎月おなじみの光景だったわけです。
ただ、話はここで終わらない。流れ的にもうひとつ付き物の光景がありまして。小切手と手形を受け取った取引業者が流れていく場所があったんです。支払い会場から程近い場所で、その大企業は金融子会社を営んでおりました。その会社に取引業者が吸い込まれるように流れていく。
ここで何をしているかと言うと、手形割引をしてるわけです。

小切手はすぐ現金化できるけど、手形はすぐに現金化されない。期日まで待たなければならない。その期日は半年先。資金繰り的に半年先なんて待ってられん。今すぐでも現金化したい。というか、それを当て込んで経営している。さっさとお金にしたい。
そういうときに手形割引をするわけですよ。手形割引料を払って、さっさと現金にする。で、そうしたい会社は多いわけですね。中小なら特にそうだし、比較的大き目の会社でも、資金繰り的に苦しい会社なんて山ほどありますし。また、何せ相手が大企業ですから、売り上げの金額も大きい。その大きい金額が半年後まで使えないか、すぐ使えるかでは資金繰り計画が全然違ってくる。なので小切手・手形を受け取る列を形成してたメンバーは、そのままこの金融子会社で手形割引をしてもらう列を形成することが多かった。
このシステムって実によくできてましてね。

ノーリスク

金融子会社が割り引くのは、親会社が振り出した手形。なので出元がメチャメチャしっかりしとるわけです。親会社の○○さんの名前が入った手形ですから。
なのでリスクが発生しようがない。この金融子会社にとって困るケースは、この手形が不渡りになって回収できないパターンだけども、その心配がない。どっちみち親が潰れりゃ、子もダメになるわけだし。ハナっから運命共同体なわけですし。手形振り出し先の信用調査なんかもまったく必要ありませんしね。

支払い値引きシステム

手形の流れをまとめるとこういう感じ。

親会社が出した手形が、取引業者を経由して子会社に戻る。取引業者はお金をゲットし、子会社は親会社の手形を得る。そういう流れ。親会社が1億円の手形を振り出した場合、子会社に戻ってくるのはその1億円の手形。1億円お帰り。ここは行って来いの関係。
ただ、取引業者は1億円手に入らないわけです。手形割引料が発生するんで。これが差っ引かれる。
年利6%の手形割引料だとした場合、6ヶ月手形なので、ザックリいって割引料は年利の半分の3%。となると振り込まれるのは1億円の3%引き、9,700万円。300万円は子会社の利益。
ちゅうことは、取引業者が子会社で割引すると、手形割引料分が返ってくるわけですね。親会社・子会社という連結関係のグループ単位で見れば。1億円支払うべきものが9,700万円で済む形になるわけですよ。

  • 親会社……マイナス1億円
  • 子会社……プラス300万円
  • 合計………マイナス9,700万円

こういうこと。自動的に支払いが値引きされる形になるわけですよ。実にお得ですね。

裏金もつくれる

で、やろうと思えば裏金も作れるわけね。親会社のお金を子会社に移転する流れになるから。取引業者を介して合法的に移転できる。
親会社から子会社に直接仕事を発注して云々だとさすがにアレで、目をつけられるし、いくらなんでもあからさまなわけですが、取引業者という第三者かますことで、だいぶマイルドになる。取引業者は取引業者の自由意思で手形割引をしたわけだし、自由意思でその子会社を割引する相手先を選んだわけでしてね。正当な商行為の結果、たまたま親会社の手形が、子会社で割り引きされただけなので、誰にも文句を言われる筋合いはないわけです。
まあ不思議と子会社の役員には親会社のげふんげふんとか。天下り的な現象もちらほらとか。まあ、太い人だと、こういう趣旨の金融会社を連結外で経営なさってたり。社長の個人会社とか、社長の親族が経営してる会社とか。

  • 「いや、たまたま会社の隣に社長の奥様が個人で経営している金融会社があるんですよ」
  • 「そこで手形割引できるらしいですよ」
  • 「うちの会社としては別にそちらでの割引を勧めるわけではありません」
  • 「ですが、もし割引をするようでしたら隣にあるので便利じゃないですかねえ」
  • 「たまたまその会社に知り合いがおりますので、よろしかったらご紹介しましょうか?」

比較的よくある話。
手形っておいしいですね。もらう側より、振り出し側になりたいもんです。