(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

自爆ドミナント出店

流行っている言葉とか、横文字に弱い経営者っているよねえ。そういう言葉を見ると、ついつい自分の会社でやってみたくなる。「鶴の一声」で導入しちゃう。で、またそういう人は大抵ワンマンで、創業オーナーとか、創業家の二代目だったりする。成功体験が自分とか身近にあるもんだから、妙な自信があるし、周りも成功を見ているもんだから、あまり反対もしない。宗教よろしく、「社長の言うことは何でも正しい」と思い込んでいることもあったり。
なので、そういう流行言葉、横文字システムをあっさり導入しちゃう。しっかりとした検証もなく「ヤッテミタマエ!」で。導入した本人ご満悦。しかし導入された現場は青息吐息。朝令暮改祭り開催のお知らせになることも多いし。ああ、大変ね。
中でも最近「あーあ」と思うのがこの言葉。

ドミナント出店

集中出店戦略のひとつ。バラバラに分散して出店するんじゃなくて、集中して出店することで、その地域の主導権を握ろうと。そうすると輸送コスト的にもお得だし、集中してその店があることで、宣伝効果も高まってよろしいんじゃないかと。そういうもの。
でだ。この戦略自体は意味もあるし、だからこそコンビニなどで導入されている。別に居酒屋でやったって悪いことでも何でもないし、横文字だろうが何だろうが、良いものは取り入れるべきだし、改善するなら実に結構なことで。
ただ、その戦略のエッセンスを理解しないで導入するから困ったことになる。ドミナント出店が効果的になるにはいくつかの背景とか、条件があるわけだけど、そこをすっ飛ばしてやるとメリットが発生しなくなる。
例えばその条件のひとつがこれ。

直営か? フランチャイズか?

ズバリ言って、ドミナント出店はフランチャイズ方式をとるチェーンに向いてます。理由は競合のデメリットがないから。同じチェーン店同士が食い合っても、フランチャイズだとデメリットが少ない。直営だとその点、デメリットが発生するんです。
例えば月50万円売り上げる店がある。いつも満員。だから近くにもうひとつ店を出そうと。満員で受けきれない分を吸収しようとしますよね。
で、この場合、元々の売り上げが下がらないのならば問題ないわけですが、分散することで、売り上げが減ると困ったことになるわけですよ。例えば店ひとつの費用が15万円とする。

  • (売上)50万円−(費用)15万円=(利益)35万円

これが出店前。で、出店後、売上が40万円になったとする。

  • (売上)80万円−(費用)30万円=(利益)50万円

店をふたつにしたわけだから、利益も2倍になると思いきや、売上が下がることで、利益率が下がるわけですよ。直営だと、モロに利益率が下がるわけで、おいしくない。人とか物とかの経営資源が分散してしまう。
ところが、フランチャイズの場合はこれでいいんです。1店舗あたりの売上が多少下がっても、売上の合計額が増えた方がおいしい。近接する店舗間で食い合っても、トータルのパイが増えればそれでいい。
何でかというと、売上に対してフランチャイズ収入がかかってくるし、売れた分だけ材料仕入れなどが発生して、本部に利益が発生するから。直営だと「売上−費用=利益」という計算式になるから、売上を増やすことイコール利益増となるとは限らず、費用によって利益が左右されるけども、フランチャイズの場合、「売上×フランチャイズ料=利益」という感じなので、費用のことはあまり考えなくてもいい。泣くのはフランチャイジーだし。オーナーだし。
だからこそドミナント出店は直営店が少なく、フランチャイズ店の割合が多いコンビニに向いた手法。「何でコンビニはドミナント出店しているのか?」には一応ザックリ大まかなこういう背景があるんだけど、そういう背景を抜きに、最近直営主体の居酒屋がドミナント出店をガンガンかけているのを見て切ない気分になっております。
まあ、それでもうまくいっているならいいんだけどね。店を増やした分だけ売上が増えて、利益も増えているならみんな万々歳。でも、店増やした分だけ、きっちり1店舗あたりの売上減ってるし。利益率が下がってますからねえ。出店すればするほど効率悪化。
で、何に手をつけるかというと、従業員を減らすんだよね。アルバイトを減らして、費用を減らすわけですよ。単純に。ただ、人が減ればサービスが悪くなるし、店の回転も悪くなるので、1組5品出せたものが4品になったり、席の回転数が減ったりする。50万の売上があった店が、近接店に吸い取られて40万になり、店の回転悪化で35万になる。
またそうなってくると、働くひとりあたりの負担も増すわけで、そのしわ寄せは正社員に行く。ああ、名ばかり店長悲哀の巻。タイムカードを早めに切って、サービス残業当たり前。半日労働当たり前。「おはようからおやすみまで」イン店舗。代わりがいないから休めない。代わりをつくろうにも、代わりをつくる余裕がない。従業員に何かを教え込める余裕なんてない。
給与体系的にも「残業○○時間込みです!」みたいになってたりなあ。残業は○○時間に達してないと、給与が減るシステム。「みなし残業」じゃなくて「するよね残業」システム。当然その時間は残業するだろ? え、しねーの? なら給料下げるよ? 当たり前だよね?
となるとどこかで消耗して、辞めるという話の流れになることは、容易に想像できるんだけど、経営者とか、経営幹部から聞こえてくる話は「店長が足りない」「社員が育たない」。社員が育つ前に、「○○駅二号店」「○○駅三号店」と出店して、無理矢理配置するからじゃないの? というお話をすると、「最近の若い人は我慢が足りない」という精神論開陳。「俺の若い頃は…」の思い出炸裂。ああ、もうね。
なんかもういろいろ大変だなあと思いました。ほんとにね。