店舗の営業を休むってのは。ポーズとしての意味はあるんだけどさ。
ステーキ店「ペッパーランチ」を展開するペッパーフードサービスは、病原性大腸菌O157による食中毒を来店客が発症したことを受け、7日に続き8日もほぼ全店で営業を休止することを決めた。
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食中毒の解決って意味はほとんどないんだよね。なんでかというと、店舗理由の食中毒じゃないから。
同社は同日、「事故のけじめとして全店休業し、衛生管理、安全管理の確認および店舗清掃を行います」とコメントを発表した。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090907/crm0909071300013-n1.htm
けじめとしての意義はあるんだろうけども、食中毒の理由を店舗の衛生管理に求めるんであれば、ちょっとずれているのかなと。
7日午後10時時点で、12都府県の計16店舗で25人の客が食中毒症状を訴えているという。
http://www.47news.jp/CN/200909/CN2009090801000286.html
店舗の衛生管理の問題であれば、食中毒はこんなに広範囲にならない。店舗の問題であれば、問題を起こした店舗の周囲に患者が集中するはずで、問題を起こした店舗が具体的に判明する。そうならず、患者があちこちに分散しているってことは、話はこと店舗の問題ではなくて、店舗の手前にあるということを示している。店舗で食材が菌に汚染されたのではなく、店舗に来る以前に汚染されていたんですよ。汚染された食材があちこちの店舗に届けられ、それが生焼けの状態で食べられたから、これだけ広範囲に食中毒患者がまたがっているんですよ。
という問題の本質を考えると、食中毒を起こしたから店舗を掃除しましょうというのは実に徒労で、解決方法としてはずれてる。反省してますアピールにはなるけども、それでは問題は解決しない。
肉を加工していた大垣食肉供給センター協同組合(岐阜県大垣市)との取引を中止すると発表した。
http://www.47news.jp/CN/200909/CN2009090801000286.html
まだこっちの方が効果はある。店舗に来る以前での汚染が濃厚なのだから、加工段階を疑うのは当然。
ただ、これにしても一定の結論が出る前に、取引の中止に踏み出すというのは勇み足が過ぎる印象は否めない。
<安全の為の対策>
1. 角切りステーキは販売致しません。
この度の問題の肉食材を製造しました大垣食肉供給センターとの取引を中止し、角切りステーキは販売致しません。
問題が起きた肉をつくったのは大垣食肉供給センターだから、そことの取引は中止する。ふむ。ちょっと拙速じゃないかね。「食中毒の原因が判明するまでの、取引の一時的停止」ならわかるが、原因が不明時点での中止ってどうなのかね。
ということを考えると、今回の対応は消費者以外にも、いろいろなところを怒らせた可能性が高い。
フランチャイジーの怒り
フランチャイズ店を出店する側を「フランチャイジー(通称【ジー】)」と言いますが、フランチャイジーにとっては、今回の本部の対応はたまらんね。何故かと言うと、店舗としては衛生的に何の問題もないのに、問題のある食材を買わされ、挙句の果てにその問題のある食材によって食中毒が起きたら、それをさも店舗の問題のように扱われる。店を閉めろ。掃除しろ。
上流に問題があるはずなのに、下流に問題があったかのようにされる。元栓に問題があるのに、蛇口が悪いかのような印象を与えられる。これではたまらんのですよ。本部から食材を仕入れる意味がないし、のれんにお金を払う意味がない。よっぽど形式だけマネで、自分ところで仕入れた肉で営業した方がいいんじゃないか。こう考えるフランチャイジーがいても不思議ではないですね。
ペッパーフードサービスの今年度第2四半期の販売実績はこうなってる。単位はすべて千円。
ペッパーランチ事業 | フランチャイズ事業 | 830,822 |
---|---|---|
直営事業 | 416,374 | |
委託事業 | 115,813 | |
レストラン事業 | 352,801 | |
商品販売事業 | 16,167 | |
合計 | 1,731,979 |
実に販売実績の半分近くがフランチャイズ事業なわけで、今回、フランチャイジーを敵にまわす本部の選択はどうなんでしょうね。店舗数という実績を担保に、銀行などからお金を借り入れて新規出店をするという今後の一手が打てなくなりやしませんかね。
納入業者の怒り
風評被害ってのは相当なもんで、名前を出されただけで窮地に陥ることもあるわけですよ。ペッパーランチはまさにそういう状況に追い込まれているわけなんですが、道連れにされたに等しい状況に追い込まれたところがあるわけですよ。名指しされた大垣食肉供給センターなわけですよ。
まだ食中毒の原因であるとは判明してないのに、先手を打って名前を出されて取引を中止される。これって相当厳しいわけですね。確かに食中毒の原因になった可能性はあるものの、まだ可能性なわけで、確定じゃない。まだ可能性の領域。でもとられた対応はキッチリ犯人扱いなわけですよ。もう既に被害金額は相当なことになっているはず。
でだ。こういうのはみんな見てます。他の納入業者は見てる。明日はわが身と思ってる。特に食肉業者はそう思っているはずで、何か問題が起きたときに、責任を被らされる可能性があるという目で今後は見るし、それを前提とした取引になっていく。取引条件の変更なんかにもつながるおそれもあるよね。食肉の世界なんて、結構狭いから、情報はすぐ行き渡るだろうし。
場当たり的な対応
っていうのを考慮に入れてもう一度これを見る。
「<安全の為の対策>」ということで5点挙げられている。
1. 角切りステーキは販売致しません。
問題は角切りステーキでも大垣食肉供給センターでもない。角切りステーキを成型肉でつくったのが問題。また成型肉でつくるなら、無菌加工すればよかったが、それもなかった。つまり本部からの指示の問題。製造した大垣食肉供給センターが悪い可能性はまだ残っているが、成型肉であれば生焼け時の食中毒リスクがあることは、食品に携わる人間なら常識的な話で、だからこそハンバーグを生焼けで食べられることをウリにしているところは、無菌加工で製造する。
そういう手立てを指示しなかった本部に責任はある。
2. 全ての肉食材の品質検査を徹底して行います。
ま、当たり前だよね。
3. 全ステーキ用のお肉を「生」での提供を中止致します。
ステーキを生で提供することが悪いんじゃなくて、生で食べるとまずいものをステーキとして提供することに問題があったんだよね。一枚肉であれば、表面を75度以上で1分間焼けばO-157の問題はないわけだし。問題のすり替え。
4. 緊急臨時検便の実施
従業員の問題じゃないのに……。店舗のスタッフかわいそう……。
5. 店舗の徹底清掃と衛生教育の徹底
だから店舗の問題じゃないのに……。それに衛生教育を徹底すべきは本部スタッフだわね。「加工肉は生焼けだとやばい」って知識を身につけた方がいいと思うよ。
とまあこんな感じで、何かにつれ本部以外の誰かに責任転嫁している気がする。店舗が悪いとか、製造した工場が悪いとか。いやいや、そういう問題じゃないんだよ。こりゃ本部が悪いのよ。消費者ににらまれてるこのときに、フランチャイジーとか納入業者とか、あるいは従業員なんかを敵にまわしている時じゃないのよ。こういうピンチに身内を敵にまわしてどうすんのよ。これを切り抜けて云々という将来をあくまで描くなら、今回のこの対応はミスだと思うなあ。負担をかける相手が違うよ。
ま、でも今回はたまたまペッパーランチがこういう事態になったわけだけども、こういう話ってどこでもあるよな。上が事態を理解せず、下へ下へと責任をおろしていく。下は自分が悪くないのに、何とか下ろされた責任を全うするが、いざというときにはハシゴを外され……みたいな展開。
会社って大変ですね。決して対岸の火事じゃござらんぞ。
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