制度の問題ではないと思うんだな。
運用の問題なのですよ。
日本と同じ「議院内閣制」「二院制」である国を例に採ると、イタリアは日本なみに首相の在任期間が短い。
戦後でのべ37名。
日本以外で、世界のどこの国で国の最高責任者が2年を待たずにコロコロと替わる国があるでしょう。
日本の議院内閣制は「活動限界」です!〜戦後歴代内閣の短すぎる平均寿命を憂える - 木走日記
実はイタリアもそうなわけで。コロコロ替わっております。伝統的にね。
一方イギリスなんかは長い。
戦後のべ14名。まあ単純に日本とイタリアの倍。平均4年は首相の座にあると。
もちろん二大政党が昔から根づいているイギリスと、政党が多数あるイタリア。そして日本を「首相の在任期間」というひとつの指標だけで比べるのは無理があって、選挙制度も違えば上下院の役割・強さも違う以上、単純な比較はできません。
しかしながら、同じ「議院内閣制」の国でも、首相の在任期間が長い国もある以上、単純に「議院内閣制の問題だ」とは言えないと思うのですね。では議院内閣制でも首相の人気が安定しているイギリスにあって、日本にないものは何なのか。その違いこそが日本の首相を短命ならしめているポイントではないか。
解散があること?
イギリスの下院は任期5年。衆議院の任期は4年。両者ともに解散があって、任期途中で総選挙となるのが通例ですけども、日本のほうが解散が早く、任期が短いんですね。
選挙回数 | 平均スパン | |
---|---|---|
イギリス | 18回 | 3.6年 |
日本 | 24回 | 2.7年 |
これ、戦後の下院総選挙の数と、それを年数で割り、何年おきに選挙があるかの平均値を出してみたわけですが、1年違うわけですよ。1年。
……でも、そもそもイギリスの方が任期が1年長いわけだよなあ。イギリスが5年、日本が4年。その差の1年がそのまま反映されているといえそう。要因はこれじゃない。
だとすると、こっちかな。
選挙以外で首相が変わる
選挙が要因ではなくて、むしろ選挙以外に要因があるから、首相が短命ではないのかと。
例えばイギリスの場合、首相が交代する際の理由はこうなってます。
1945 | チャーチル | → | アトリー | 総選挙による政権交代 |
1951 | アトリー | → | チャーチル | 総選挙による政権交代 |
1955 | チャーチル | → | イーデン | 辞任 |
1957 | イーデン | → | マクミラン | 辞任 |
1963 | マクミラン | → | ヒューム | 辞任 |
1964 | ヒューム | → | ウィルソン | 総選挙による政権交代 |
1970 | ウィルソン | → | ヒース | 総選挙による政権交代 |
1974 | ヒース | → | ウィルソン | 総選挙による政権交代 |
1976 | ウィルソン | → | キャラハン | 辞任 |
1979 | キャラハン | → | サッチャー | 総選挙による政権交代 |
1990 | サッチャー | → | メージャー | 辞任 |
1997 | メージャー | → | ブレア | 総選挙による政権交代 |
2007 | ブレア | → | ブラウン | 辞任 |
2010 | ブラウン | → | キャメロン | 総選挙による政権交代 |
基本的には「選挙に負けたから」という理由で政権を降りる場合がほとんど。それ以外の辞任のケースも、「党内抗争が」とかの理由はあんまりなくて、健康上の問題であったり、不祥事の引責だったり、長期政権の行き詰まり打開のようなケース。日本のような政局理由の辞任はあんまりない。
選挙で選ばれた人は、基本的には選挙以外では辞めない
本当はこの原則こそが選挙とか、有権者を尊重することなると思うんですよね。同時に首相という地位を尊重することにもつながるわけで。で、日本ではこの原則が守られていないから、首相がころころ入れ替わるし、その地位もそれにしたがって軽くもなる。選挙よりも大事な要素があるって話ですから。
首相が政党の代表でいられなくなる不思議
特に日本で不思議なのは、総裁選とか党首選とかいうやつで、有権者全体から選挙で新任を得た人間を、いち政党のいち選挙で入れ替えたりする。国全体での選挙より、党のローカルな選挙が優越するという。
自民党時代にあったいくつかの首相交代は、首相としての任期よりも、党総裁としての任期が優越するからあったわけでありましてね。国政選挙で勝っても、党内闘争に負けたらダメ。……不思議だよねえ。なんのための国政選挙なんだろうねえ。
結局は「首相公選制」なのかな
基本的にはこういう運用面をどうにかせんと、根本的なところは何も解決しない。少なくても党のトップの任期は、首相在任中は棚上げにするのがあたりまえだろうし、、それがあたりまえという感覚にならないと、いつまでたっても首相というポジションが軽いままじゃないかなあと。
日本の首相も、例えば直接選挙制による2期までの4年任期制などを検討すべきではないのでしょうか。
日本の議院内閣制は「活動限界」です!〜戦後歴代内閣の短すぎる平均寿命を憂える - 木走日記
あるいは首相公選制なのかな。ま、憲法改正なんかも必要だから、これはちと面倒だけども。
選挙による政権交代が定期的に起きれば解決する問題のような気もするけども、ちょっと解決までの道のりが、それでは長いような気もするしな。このあたりは難しいところ。
しかしまあ、首相の地位にある人間が党首選を戦うことの不思議が語られないというところに、日本の問題があるような気がしますよ。なんでだろね。
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