一票の格差は「票の平等」に反するというルール違反だけど、死票はそれがあるから直ちに問題であるとは言えないわけでね。既に問題である話と、問題かどうかは視点による話は切り分けないとまずい。
- (過去記事)極端だからいいこともある - (旧姓)タケルンバ卿日記 2009-08-23
今回の選挙結果を見てもわかるように、小選挙区制度というのは極端な結果が出るんですよ。勝つか負けるか。All or Nothing。他の候補者より1票でも多ければ議席ゲット。その反面、1票でも足りなければ議席が手に入らない。
「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちればただの人だ」
大野伴睦はこんな言葉を残してますけど、まさにこれを地でいく制度。
でだ。そのために死票が多い制度なんです。負けた方に入れた票は死票。せいぜい比例区での惜敗率計算に役立つくらい。復活当選の順位決めという出番があるわけで、それ以外の意義ってないのですね。ない。ほとんどない。で、これを問題であるという言い方は当然できるんだけど、同時に「だが、それがいい」という視点もあるのよね。死票が出るような制度だからいいんだと。
死票が出るから、明確な結果が出る。
明確な結果が出るから、政権与党がスッキリ決まる。
政権与党が決まるから、責任の所在が明確になる。
責任の所在が明確だから、政権交代させるかどうかの選択ができる。
政権交代させるかどうかの選択ができるから、実際に政権交代させられる。
そしてその政権交代をさせやすいという効果は、今回の選挙結果で実証済み。選挙による政権交代は戦後初めてだからね。細川政権の誕生のときは、自民党が選挙に負けたわけじゃないから。その証拠に公示前と公示後の議席数はほとんど変わってない。自民党が政権を失ったのは、新生党と新党さきがけの誕生による内部分裂による勢力減退が理由で、有権者に「No」を突きつけられたわけじゃない。有権者が与党を負かして、政権から引きずりおろしたのは戦後初めてなんですよ。
で、個人的に俺は政権交代論者だから、今の制度でいいと思ってるわけね。問題ない。一票の格差の是正は憲法違反に関わる問題だから、手をつけなければいけないけども、死票の問題はそれを問題と認識してないので。小選挙区制度は死票が出る制度なんよ。死票が出るかわりに、極端な結果が出る。そして極端な結果が出るから政権交代が容易になる。
こういう流れで考えているから、政権交代論者としては今の制度を否定する理由がないんです。むしろ望ましいんです。「比例並立制はどうなのよ」とか「復活当選はあり?」とかの問題はあるだろうけども、小党がまったくなくなっちゃうのもアレだし、復活当選云々はそれぞれの政党の運用の問題だから、まあ仕方ねえと。こう思ってるわけね。問題はあるものの、そこそこバランスがとれていると思うのよ。少なくても中選挙区制度よりはいいだろうし。戻したい人は多いだろうけどね。
でだ、こんな風に考えてるので、参議院に関してもちょっと意見が違うのですよ。
参院に関して言えば、選挙区を廃止し、比例代表に一本化してしまうのがよいのではないか。
404 Blog Not Found:民主党が次の参院選までにやっておくべきこと
衆院を小選挙区のみにすれば、衆参の違いも明確化できてよいのではないか。
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これは参議院存続を前提にした弾さんの意見だけど、俺はそもそも参議院廃止派なのね。一院制でいいと思ってる。違う議院を用意して、バラバラに選挙するのはどうなのかなあと。「より議論が慎重になる」という意見はあるし、まあ確かにそれはその通りなのかもしれないんだけど、その反面、「より議論が遅くなる」というデメリットがある。結局メリットの裏返しはデメリットで、いいことだけじゃない。
選挙時のタイミングの違いによって「民意」という曖昧なものが複数あるのもややこしい。衆院選の結果も、参院選の結果も民意が反映されたものなんだろうけども、その結果が食い違うときにどうするかという問題は常についてまわるわけでね。前回の参院選後にいろいろと混乱したわけだしね。
第二院は、第一院に一致すれば無用であり、第一院に反対すれば有害となる
これはシェイエスの言葉とされるもの。議論の結果が一致すれば別に2回も審議する必要がないし、食い違うなら混乱のもとで有害ということなんだけど、まさにそういう感じだと思うのよね。参議院は無用だし、時に有害になる。議論が慎重になるというメリットはあるだろうし、いわゆる「チェック&バランス」の機能はあるんだろうけどもさ。
なので、小選挙区制度の衆議院と、比例制度の参議院という考え方をするくらいなら、衆議院だけでいいじゃんと思ってしまう。丁度具合がいいことに両方の制度がミックスされているわけだし。小選挙区制度の方で明確な政権選択ができるし、比例制度の方で少数意見の吸い上げができる。新党大地みたいな地域政党だって存続できるわけだし。道州制との絡みで言えば、衆院選との相性がいいわけで。これでいいじゃないですか。ねえ。
もっともこのあたりは前の記事で書いたように、日本には多数決型と合意形成型、どっちが合うのかって話がベースにあって、派生していく話だと思うのね。で、わしゃ多数決型でいいと思ってるから現在の選挙制度でもいいと思うし、政治判断のスピードアップのために一院制でいいと思っちょると。そして二大政党制のような政権を担える政党が複数あった状態で、有権者が4年に一度政権選択ができるという状態がベターと考えておるわけです。単独政権の方が望ましいと思ってますよ。
逆に合意形成型をイメージしている場合、今の状態は問題に見えまくる。二大政党制よりは穏健な多党制の方が望ましいだろうし、単独政権よりは連立政権の方がいいだろうし、死票がでる選挙制度も問題だし、比例制度のような得票率が議席数に直結する選挙制度がベターと考えているはず。そして参議院にもっと力を持たせる方向での改革を考えてもいるはず。俺は「廃止」という方向、必要なしという発想だけど、その正反対の必要ありという判断をしている人も多いはず。
結局はゴールに何を設定するかどうかで、そのパーツが良いか悪いかが決まってくる。見る人の視点の置き方ひとつで白くも黒くも見える。メリットは時にデメリットになり、デメリットもまたメリットになりうる。政治の話なんてそんなものなんですよ。絶対的に悪いものなんて滅多にないわけで。全会一致で決まることなんてそうそうないでしょ。意見って大抵割れるから多数決で無理やりにでも決めなきゃいかん場面があるわけで。
そういう全体像を考えた上で、政治の細かい制度を考えるといいんじゃないかと思います。選挙制度とか議院制度って密接な話だからね。
はい、マジメな話はこんなところで。