アプローチが逆じゃないかと思う。
電子書籍の価格は、多くが紙の本より2割から5割安くなる。内田樹著「街場のメディア論」など20タイトル以上の光文社新書は、紙の本を買うと電子版が無料で付くキャンペーンも展開する。
http://www.asahi.com/national/update/1104/TKY201011040490.html
むしろ電子版のおまけに、紙の本を位置づけるほうがいいんじゃないかな。
電子版の最大の利点は在庫がないことと、販売数と生産数が一致すること。必要なものを必要なだけ注文があった段階でデータとして生み出し、売ることができる。経年劣化はおこらないし、不良在庫も発生しない。廃盤にする必要もない。売れば売っただけ利益になる。一度データを完成させれば、それ以上の生産コストは基本的にかからない。
しかし紙の本はそうじゃない。あらかじめ生産した分しか売れない。在庫が発生する。販売数と生産数が乖離することがある。必要としている店舗に在庫がなく、必要としていない店舗に在庫があるなど不具合が発生する。売り切れなどの販売ロスがある。経年劣化がある。不良在庫による保管コストが発生する。そのために廃盤にする可能性もあるし、ヒット作でも増刷をかけるタイミングとその量によっては、あまり利益を出さないケースも考えられる。むしろ損失を出すケースだってありうる。
こういう両者のメリットとデメリットを考えると、販売数と生産数を一致させることができる電子版を、おまけにするメリットがあまりないのではないか。電子版の販売数に合わせて紙の本を生産する方が、ムダが発生しないのではないかと思うわけですよ。「作りすぎ」がないのが電子版の意義なわけだから、むしろそこに紙の本を合わせて、紙のムダを抑えた方がいい。
本のオンデマンド販売に度々触れているのも、そういう考え方が理由。
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紙の本はかつてのマクドナルドと同じ。要は作りおきなわけ。在庫を前提とした旧来の生産システム。本はせっかく在庫を必要としない新たな生産システムを手に入れようとしているんだから、古いやり方に合わせる必要はないと思うんだ。むしろ古いやり方を新しいやり方に引きずり込んで、相乗効果を狙うのがいいんじゃないかな。
例えば「たのみこむ」方式で、「1万部売れたら紙の本がセット」とか。電子版のみなら300円。紙の本セット権利付きなら500円。販売数が目標に達しない間は紙の本が手に入らないし、多めに出した差額分が損になるけども、紙の本単独よりも割安な価格設定にすれば多少なりとも需要はあるかも。
なんにせよ、このやり方にすれば「作りすぎ」は発生しないし、出版側の利益計算が容易。確実に利益が出て、紙の本をプレゼントしてもお釣りが出るというラインに目標部数をセットすればいい。電子版は当初の生産コスト以外に追加の支出がないわけだから、採算ラインを越えれば後は儲けっぱなし。増刷による支出がないのだから、その利益の還元方法として「紙の本プレゼント」はアリじゃないか?
また、目標部数があることで、紙の本セット権利を持っている人が宣伝してくれるかもしれんし。「あと38部!」とかどこかにわかるようにしておけば、紙の本が欲しい人ほど熱心に宣伝してくれる。
アフィリエイトがあるネットと相性のいい販売方法だと思うのですがね。電子版を添え物にせず、電子版を主体として考えませんか?
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