(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

人月は流れて西へ

人月の話が話題になっているようなのでちょっと。
わしゃIT企業に属したことがないし、プログラマの仕事も、SIerの内部もようわからん。が、ゼネコンとか、人材派遣業界には籍をおいていた関係で、非常に既視感を持って見つめております。「まあ、どこも似とるなあ」と。根は一緒だわ。

俺も過去に書いておりますし、どなたも言っておられることですが、人月とか人工商売のメリットでありデメリットは、価格の根拠となる「人」が「誰でも同じ」ということ。スーパープログラマがやっても、ド新人がやっても同じなのであります。
で、これでおいしい思いをするか、まずい思いをするかはビジネスの仕組みの問題であります。「誰でも同じ」をメリットと考え、安い人件費の人間を集めて仕上げ、差額を浮かせて利益を出そうとするか、いいものを作ろうと人件費をかけたものの、そのかけた分の人件費を回収できずにうおああああああとなるか。端的に言えばこの差。

目下の問題は

でもって目下問題になっているのは、前者においては「安い人件費って言っても限界があるだろ」という国内労働力の問題であり、同時に製品価格の根拠となる人件費の時間単価の減少傾向。後者の場合、それに加えて人月・人工以外の製品価格積算根拠がないことと、経費を製品価格に転嫁できない点。利益を出そうという意欲的な人間にとっても環境は厳しいものがあるし、そうでなければ悲観的にならざるを得ない現実があると。
……いやあ、公共事業がたどった道と似ているよね。人件費は上がる。工事価格の根拠となる労働力ひとりあたりの単価は下がる。人工計算以外の工事価格根拠があまりない。などなど。派遣の世界も一緒。さして変わらんです。

障壁差

ただ、働く人目線で考えれば、公共事業とか派遣業界なんかはITよりまだ恵まれているのよね。障壁があるから。例えば現状ではビザもろもろの関係で、労働力の輸入はあまりないし、輸入製品には関税なんかもかかる。国内の労働力は一応保護されとる。
ところがプログラムとかって障壁がないよね。どこの国の誰がつくってもいい。設備を伴わず、データをダウンロードするってだけなら「輸入」でも何でもないだろうから、関税とかで産業保護をするのも難しいだろうし。メールに添付して送ればいっちょあがり。
となると、経営者目線で考えるなら、人月商売をやるなら日本を捨てるのがてっとり早いと思うんだな。どこでつくっても同じなら、人件費が安いところでつくればいいわけだし、それを日本に移す経費はほとんどかからんわけだし。

西へ西へ

日本のメーカーが安い人件費を求めて海外に進出したように、人月商売をやるなら海外進出というのが当然の帰結と思うんだ。誰がやっても同じ価格なら、なるべく安い人件費の国でつくった方がいいわけだし。別に日本にこだわる必要ないだろ。
人月商売を維持しようとしたら、その人月を支える労働力を求めて、企業の本拠地も西へ西へと行かざるをえないのかな。日本を捨てて、西へ西へと。日本と同レベルのプログラマを、日本よりも低価格で雇える国へ。
第二次大戦後のアジア興隆の過程を追うような感じだわな。日本からまずはNIEs(懐かしいな、この言い方)の韓国・台湾・シンガポール・香港あたりへ。続いてASEANのタイ・インドネシア・マレーシア。そうしているうちに中国が発展し、ベトナムも工業化が進み……の流れ。

マネージャーにならないと厳しい

一方労働者目線で、人月の世界で生き残ることを考える場合、基本的には工程を管理するか、工程自体をつくる人にならんとつらい気がするな。「現場監督」の役割みたいなもんだな。
日本人の労働力が高くて見合わない商売になる以上は、日本人はひとりの人工にはなれず、次第にマネージャー業務にシフトしていくことになる。人工を使いこなす側にならないとどうしようもないよね。
語学スキルも必要だろな。労働者と意思疎通できないとどうにもならんだろうし。英語が無難だろうけど、北京語とかアラビア語なんかも有力な選択肢。
状況としては「プロジェクトX」とかでよく見るパターンなんだろな。「海外のプラント建設現場あるある」というか。日本人はトップだけ。残りは現地の労働者。

プログラマでいたい場合は一人親方

問題は「いちプログラマでいたい」という場合。マネージャーは向いていない。やりたくない。プログラミングだけをやっていたい。
申し訳ないけども、これは人工商売の会社では通用しなくなるであろう話だと思う。もっと安い人工がいる以上、もっと安い人工を主軸に据えるのが利益を出すにあたってベタなやり方だから(経営者目線で考えるとね)。
なわけで、必然的に一人親方の選択肢が有力な気がする。「人手を集めて……」の商売が国内では行き詰まる見通しである以上は、個別化・分散化になるのが自然なんだろうな。大が大を相手にする商売をするには、大を支える土台を外に求める必要があるが、小が小を相手にする商売であれば土台はいらず、ひとりでもやっていける余地はあるというか。
ま、このあたりが非IT関係者であり、非プログラマであり、ゼネコン寄りの人間の見解。関係者はどう考えているのかしら。id:gothedistanceidコールしてみるか。どう思う? ござ先輩!
以上、久々に長文をしつらえてみた。眠い。寝る。

追記(2011-02-10 15:30)

ござ先輩が早速書いてくれたお。

ありがたいことですね。