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音楽業界はどうなるんでしょうね - 音楽メディアユーザー実態調査で考える

なかなか興味深い統計結果。日本レコード協会の「音楽メディアユーザー実態調査」。2008年度版の調査結果が3月12日に公開されてる。

概要はこちらでも触れられているけど。

こういうデータをいじくるのは好きなので、せっかくなので自分もちょっと分析することにした。幸いなことにデータは結構ネットであたれるし、これ以外にも相当なものが転がっているので。便利な世の中に感謝だねえ。

概況

「CDが売れない」という話はもはや周知の事実。ミリオンセラーが出なくなったし、明確に数字として出てます。

数量で見ても、金額ベースで見ても、見事なまでの右肩下がり。気持ち良いくらいの右肩下がり。
じゃ世界はどうなのかということで、アメリカのデータを見てみる。

実はアメリカも減っている。メチャメチャ減ってる。
日本とアメリカのCDの生産・出荷の数量と金額ベースの推移をまとめたものと、グラフ化したものがこちら。

(表1)日米CD数量推移
日数量 米数量 日金額 米金額
単位 百万枚 百万枚 億円 百万$
1998 457.2 847.0 5,879 11,416
1999 423.8 938.9 5,513 12,816
2000 414.1 924.5 5,239 13,215
2001 368.6 881.9 4,896 12,909
2002 328.7 803.3 4,318 12,044
2003 315.3 746.0 3,880 11,233
2004 302.3 767.0 3,686 11,447
2005 301.8 705.4 3,598 10,520
2006 290.3 619.7 3,445 9,373
2007 260.3 511.1 3,272 7,452
98/07 56.9% 60.3% 55.7% 65.3%
(図1)日米CD数量比較(単位:百万枚)

(図2)日米CD金額比較(単位:日・億円、米・百万ドル)


ともに右肩下がり。アメリカと比べたらマシに見えないこともないくらい。
ただ、表1の最下段に注目して欲しい。これは2007年の数値が、1998年の数値に対して何%かを示すものだけども、日本が56.9%・55.7%に対し、アメリカは60.3%・65.3%。日本は45%程度、数量も金額も減っているし、数量よりも1.2%ほど金額の落ち込みが大きい。それに対してアメリカは確かに数量は4割減らしているものの、金額の落ち込みは数量のそれを比較して5%少ない。

1枚あたりの単価を高めたアメリカ、単価も数量も減らした日本

先ほどのデータに登場した数量と金額を使えば、CD1枚あたりの単価が割り出せる。

こちらの資料で示されている、アメリカでのCD1枚あたりの単価と比較してみる。

(表2)日米CD1枚あたりの単価推移(単位:ドル 1ドル=100円で換算)
日本(アルバムのみ) 日本(全体) アメリ
1998 16.26 12.86 13.48
1999 16.30 13.01 13.65
2000 15.43 12.65 14.02
2001 15.79 13.28 14.64
2002 15.10 13.14 14.99
2003 14.69 12.31 15.06
2004 14.36 12.20 14.92
2005 13.11 11.92 14.91
2006 13.19 11.87 14.90
98/06 81.1% 92.3% 110.5%
(図3)日米CD1枚あたりの単価比較(単位:ドル 1ドル=100円で換算)


日本は1998年に対し、2006年は18.9%・7.7%下落ですか。ふむ。なかなか厳しい感じが伺えますなあ。円での金額だと、1998年が1,626円だったのに対し、2006年は1,319円。2007年はやや持ち直して1,411円ですが、それとて、落ち込んでいることには変わりはないわけで。このあたりの数字を見ても、日本の音楽業界、CDの売上環境を巡る厳しさがうかがえますねえ。

何が売れていないのか?

ではここからは「音楽メディアユーザー実態調査」を使って具体的に。まずは分野別の購入率・利用率のデータから。

(図4)過去半年間のCDの購入率・利用率


見事な右肩下がり。あんまりテンション上がる話になりそうもない感じ。
2007年から2008年かけて、レンタルCDの利用率が上がっているのが唯一の救いですし、なんか良さげな感じではありますが、

(図5)過去半年間のCDの購入・利用平均枚数


上がっているのはあくまで利用率。2007年から2008年にかけて、利用率は上がっても、利用枚数は減っている。ということは、単純にお金を使わなくなったというだけのこと。

(表3)過去半年間のCDの購入・利用平均枚数
購入CD 新品CD 中古CD レンCD
2005 8.45 6.46 7.24 12.71
2006 6.72 5.68 5.12 14.88
2007 6.23 4.92 2.04 13.10
2008 6.21 5.24 1.51 12.06
05/08 73.5% 81.1% 20.9% 94.9%

きっちりと全部減ってます。
このあたりのデータから、次の問題が浮かび上がりますな。

売れないシングル

とにかくシングルが売れない。アルバムは健闘しているものの、シングルの状況が壊滅的。

(表4)過去半年間のシングルCDの購入率・購入数
購入率 購入数
全体 新品 中古 全体 新品 中古
2005 21.5% 18.8% 6.7% 6.23 5.53 4.36
2006 20.2% 18.7% 4.4% 4.43 3.58 5.21
2007 18.7% 17.4% 3.1% 2.12 1.74 0.48
2008 16.5% 15.1% 3.8% 2.20 1.87 0.41
05/08 76.7% 80.3% 56.7% 35.3% 33.8% 9.4%

2006年と2007年の間に時空の歪みがあるとしか思えない変化っぷり。急降下。急降下して戻すかと思いきや、2008年も同じ水準。新品でも買わないし、中古ならもっと買わない。

中古CD市場はどうなってしまうの?

そして中古にも2006年と2007年の間に何かある。

(表5)過去半年間の中古CDの購入率・購入数
購入率 購入数
 全体  アルバム シングル  全体  アルバム シングル
2005 15.5% 13.2% 6.7% 7.24 6.19 4.36
2006 10.5% 9.1% 4.4% 5.12 3.57 5.21
2007 10.0% 8.7% 3.1% 2.04 1.61 0.48
2008 11.0% 9.5% 3.8% 1.51 1.15 0.41
05/08 71.0% 72.0% 56.7% 20.9% 18.6% 9.4%

率は減少傾向ではあるものの、ここ3年は安定している。が、数がとにかくひどい。半年で5枚売れてたものが、いきなり2枚になると。一時的な現象かと思ったら、2008年はさらに減ると。これはなかなかの出来事。シングルに至っては、1年で1枚売れるか売れないか。
世間的には「中古CDが売れているから、新品CDが売れないんだ!」という言説がまかりとおっておりますが、どうやらそんなことはないようですね。新品CDが売れる売れないの話以前に、中古CDが売れてないわけですから。新品CDが売れなくなった分の受け皿になっているとは、到底言えない。

受け皿はレンタル?

新品CDが売れていない。中古はもっと売れていない。となると、CDの売上を減らしているのは、レンタルではないか?という推測は一応成り立つわけです。CDをレンタルし、それをデータとしてPCに取り込むから、CDが売れないんだと。そういう理屈。

(表6)過去半年間のレンタルCDの利用率・利用数
利用率 利用数
 全体  アルバム シングル  全体  アルバム シングル
2005 29.7% 27.9% 17.1% 12.71 6.86 10.73
2006 30.0% 27.5% 17.7% 14.88 7.03 14.21
2007 29.8% 27.9% 15.4% 13.10 6.84 7.26
2008 34.3% 32.0% 16.8% 12.06 7.09 5.69
05/08 115.5% 114.7% 98.2% 94.9% 103.4% 52.9%

これは言えなくもないという感じ。レンタルはなんとか持っている。シングルは減らしているものの、アルバムで持ちこたえてる印象。表3を見てわかるように、レンタル分野はまだマシ。
……だが、こういう現実もある。

(表7)CDレンタル店数の推移
店舗数
1999 4,116
2000 3,864
2001 3,661
2002 3,572
2003 3,422
2004 3,305
2005 3,225
2006 3,179
2007 3,116
2008 3,051
99/08 74.1%

レンタル店数が減っている。ということは、パイを食べる人が減っている。利用数が変わらないということは、パイの大きさは変わっていないはず。ということは、店あたりの分け前は増えていてもおかしくないし、経営的にラクになっていても不思議はないし、店舗数が減る道理はないはずだけども、現実はというと、減り続けている。現実はちっともラクにはなっていない。
新品や中古よりはマシだけど、レンタル市場も縮小傾向にあることは間違いない。となると、音楽市場全体が縮んでいるというだけで、何が悪いとかという話ではないのでは?

レジャーとしての音楽

それを裏付けるデータがレジャー白書の中にあった。それをまとめたのがこれ。

(表8)音楽鑑賞の参加率・年間活動回数・年間平均費用の推移(単位:%・回・円)
参加率 活動数 費用
2001 40.6% 72.9 12,700
2002 40.6% 69.9 13,100
2003 41.4% 65.1 14,400
2004 38.5% 73.5 12,000
2005 36.6% 72.1 13,000
2006 33.4% 74.2 11,800
2007 34.4% 71.1 10,700
01/07 87.7% 97.5% 84.3%

比較のため、同じような音楽活動ということで、「音楽会、コンサートなど」のデータを載せる。

(表9)音楽会、コンサートなどの参加率・年間活動回数・年間平均費用の推移(単位:%・回・円)
参加率 活動数 費用
2001 22.5% 4.5 16,400
2002 23.6% 3.6 15,800
2003 21.3% 4.1 15,600
2004 23.3% 3.8 15,200
2005 22.3% 4.6 18,100
2006 22.1% 4.6 16,200
2007 22.1% 4.2 18,300
01/07 98.2% 93.3% 111.6%

同じ音楽分野のレジャーながら、明暗が分かれた感じ。音楽を聴く回数こそ減っていないものの、音楽を聴く人の数は減っているし、聴く人は、年間の回数は同じながら、かける費用を減らしている。
そしてやっぱりここでも2006年と2007年の間で、額を大きく減らしている。2008年のデータがないので、これだけではわからないが、一体何があるんでしょうね。

音楽界の変化

考えるに、可能性があるのはこのあたり。

YouTube(2005年サービス開始)
ニコニコ動画(2007年サービス開始)
iTunes Store(2005年日本オープン

既存のものではここまで大きな変化が起きるとか考えられないので、新たなに始まったサービスのいずれかの影響が強いのでは。
実際、2008年度の「音楽メディアユーザー実態調査」によると、CD購入のきっかけになったものという設問で、「YouTube」をあげたのが8.1%、「YouTube以外の無料動画配信サイト」も3.7%いた。この層は2005年以前は存在しなかったわけで、影響はかなり大きい。
考えようによっては、これは「CD購入のきっかけになった」という数字なわけで、それ以上の「聴いたが、買わなかった」「きっかけにならなかった」という人たちが存在するってわけですね。

(表10)CD購入動機がYouTubeと答えた人の性・年代別
男性中学生 18.8% 女性中学生 17.4%
男性高校生 26.5% 女性高校生 29.1%
男性大学・専門学校生 32.1% 女性大学・専門学校生 22.0%

YouTubeが購入動機になった層を性年代別でみると、学生を中心に2割〜3割いる。

(表11)学生の推定マーケットシェア(中学生・高校生・大学生・専門学校生)
2003 19.4%
2004 19.3%
2005 15.8%
2006 19.0%
2007 18.3%
2008 17.9%

「音楽メディアユーザー実態調査」での中学生・高校生・大学生・専門学校生の数値を合計してつくったのがこの表。小数点以下の処理ができないため、小数点以下で誤差が発生している可能性があります。ご注意。ま、不正確ではあるが、大まかなところはつかめるはず。
この数値を見る限り、2007年、2008年と減少はしているものの、ここで傾向を見出せるほどの動きはない。YouTubeをはじめとする動画サイトによってCD売上が減少するならば、そうしたサイトを利用する層のシェア、即ち学生のシェアは低下するはず。なので、そこが減少しないということは、学生に限定されない全体的な市場の縮小が起きていることが原因であり、市場全体が縮小しているからこそ、学生のシェアに大きな変化がないと考えるのが自然じゃありませんかね。

結論

  • 音楽市場全体が縮小している。
  • 新品CDが売れないのは、中古CDのせいではない。
  • むしろ中古CDの方がよっぽど売れてない。
  • レンタルCDのせいという疑いはあるが、レンタル店が減っているという現実を見ても、そこまでレンタルに力があると思えない。
  • YouTubeニコニコ動画をはじめとする動画サイトの影響は考えられるが、その関連は証明できない。
  • 現在の学生が社会人になったとき、大きな変化が起きる可能性がある。
  • 5年後どうなってるかな?

なんかしまらないですが、こんな感じで。