(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

なんにも知らない人目線

かれこれ2年以上前の記事なんだけど、あらためて読んでみてもおもしろい。

任天堂岩田聡社長の話。
中でも「世界一の宮本茂ウォッチャー」としての話が興味深い。

  • 岩田  宮本さんはなんにも知らない人をつかまえてきて、ポンとコントローラー渡すんですよ。で、「さあ、やってみ」って言ってね、なんにも言わないで後ろから見てるんですよ。わたしは、それを「宮本さんの肩越しの視線」と呼んでたんですけど。その重要性というのは、いっしょに仕事するまでわからなかったんです。いっしょに仕事してはじめて、「あ、これだ」って思うんです。つまり、ゲームをつった人は、ゲームを買ってくれるひとりひとりのお客さんに対して「このようにして作りました。 こう楽しんでください」とは、説明に行けないんですね。当然ですけど。
  • 糸井  そうですね。
  • 岩田  だから、仕方ないので、すべてを、ものに託すわけです。ところが、ものというのは、そういうことを伝えるうえでは、きわめて不完全にできている。だから、伝わらないんですね。製作者が、想像もしないところで、予想外の戸惑いを感じたりする。
  • 糸井  宮本さんは「肩越しの視線」でそれを探しているわけですね。
  • 岩田  そうなんです。なにも知らない人がそれを遊ぶのを見て、「あ、ここわからないのか」とか、「あそこに仕込んだ仕掛けは とうとう気づかずに先に行ってしまった」とか、「先に、これやってくれないと、あとで困るのに」というようなことが、後ろから見ていると、山ほどあることがわかるんです。お客さんが、前提知識がない状態で、どんな反応をするかがわかるんですね。だから、宮本さんは、自分がどんなに実績のあるゲームデザイナーであろうと、「お客さんがわからなかったものは 自分が間違ってる」というところから入るんですよ。
  • 糸井  なるほど。
  • 岩田  簡単にいえば、お客さん目線なんですけど、それをどうやって見つけるかという方法を宮本さんはすごく早くから確立していて、一方、わたしは、自分のプログラムがイケてるかどうかには興味はあっても、お客さんがどう感じるかみたいなところは考えが及んでいなかったんです。
HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN - 1101.com

これ何にでも必要な視点だよなあ。ゲームだけじゃない。おもちゃだけじゃない。こうやって自分が書いている文章にしてもそうだ。Webサービスもそうかもしれない。あらゆる製品、制作物に必要な視点。
必ずしも作った側が考える意図通りに利用者は読まないし、動かないし、使ってくれない。期待はできてもあてにはならない。意図通りに結果を導くには、そのための工夫が別途必要で、それは「なんにも知らない人」の視点から生まれる。
携帯電話くらい必需品になってくれば、ある程度期待通りに使ってくれる面はある。でもそれは必需品だからで、前提知識や予備知識といったものがあふれているから。「携帯電話はこう使うもの」という情報があるから、そう使ってくれる。「常識」と言われるものが既にあるから、その常識通りに使ってくれる。
けれども必需品じゃないものにはその期待はできないよね。ブームになっていない、流行していない、定着していないものにそこまでの期待は無理。携帯電話を例に挙げたけども、必需品と思われていない部分に関しては「あばば、あばば」となっている人が多いわけで。「なんにも知らない人」に言われる定番は、「電話帳の登録ってどうやんの?」「赤外線受信ってどうやんの?」「この『CC』って何?」とかだし。あとは「メッセージRってのを消したいんだけど」とかだわ。「妙なのが出てて消したいんだけど」ってパターン。
もちろんこういうやり方にしたって説明書には書いてあるんだけど、あんなもんもはや保険の定款みたいになってる。「ほら、ここにやり方書いてあるじゃないですか」的なアリバイというか。いや、あるよ。あるんだけど読まない人もおるでしょ。読まない方が悪いのかも知れないけどもさ。
まあ携帯電話はこれでもいいんだ。必需品だから。しかしそれでも使わざるを得ないものだから。手放せない。分厚い説明書に不満がありながらも、代替物がないから使うしかない。
でも、そういうレベルに達していないなら、不満ってリスクになっちゃう。意図がわからない文章、使い方がよくわからない製品、説明不十分なWebサービスとか。「なんにも知らない人」にとってすんなり使えるものでないと、潜在不満になる。
必需品となっておらず、ブームでも流行でもなく、代替物がないものこそ、「なんにも知らない人」視点が必要なんだろうな。作り手の意図とか思い入れとか期待を全面に打ち出してもしょうがない。それが使われてなんぼ。受け入れられてなんぼなんだろうなあ。
気をつけようっと。