(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

ディベートの奥義は「聞く技術」

ディベートは『話す技術』を身につけるためにするものじゃなくて、『聞く技術』を身につけるために有効なんですよ」という話をすると驚かれる。
朝まで生テレビ」の影響か、討論とか議論が持つ一般的なイメージのせいか、ディベートはどうも「言い負かす技術」としてとらえられているらしい。「話す」という攻めのイメージはあるけど、「聞く」という守りのイメージがない。
もちろんディベートにおいて、「話す技術」が有用なのは言うまでもないし、それがなくては主張は成り立たない。だけども、ディベートで行われている議論が、どういう形式で進んでいるかということを考えると、「聞く技術」こそがディベートの基本であることはすぐわかる。

ディベートはターン制バトルである

あまり馴染みのない人にディベートを説明するには、「ターン制バトル」って言い方がわかりやすいと思う。ディベートでは交互にターンが来る。時間も形式も決まっている。どちらかが一方的にターンを続けることはありえない。自分の持ち時間が終われば、相手の持ち時間がはじまる。
ずっと俺のターン」はディベートにはない。5分話したら、5分話される。質問をしたら、質問をされる。基本的には交互にターンがまわる。先攻・後攻の有利不利がないようなシステムになっている。

言い逃げはできない

質問をしたら必ず質問されるし、問題提起をすれば必ず反論をされる。そのために言い逃げはできない。通り魔的な発言ができないので、「言ったもん勝ち」は成立しない。
またディベートの最終弁論では、新しい論点を提示することはできない。何故なら、相手方がその論点に対して反駁する十分な機会が得られないから。
序盤に議論の前提や範囲を示し、あとはその範囲内で戦う。それもターン制で。

相手の話を聞くことが備え

逆を言えば、相手が話し終えれば、次に自分が話すことができる。相手の質問が終われば、自分が質問できる。相手の攻撃が終われば、自分の攻撃となる。ターン制バトルということはそういうこと。
ディベートの選手(「ディベーター」と言われる)は相手のターンになにをしているかと言うと、相手が何を言ったかを聞いている。時に速記、時にメモ。相手がこちらに何を聞いているのか。その趣旨、論点、証拠。これを確認している。
何故そうしているかと言うと、聞いておかないと、回答できないから。質問があって、回答がある。質問をよく聞かない者は、回答をよくできない。相手のターンを分析し、それに対する最適解を自分のターンで返したい以上、その材料集めとしての「聞く技術」はディベートでは必須の技術。
例えば肉が問題になっているとする。相手は価格が問題だと言う。この場合に、味の話で返しては意味がない。「高いのが問題だ」と言っているわけだから、「高い」という相手の前提に乗って「高いのは問題ではない」で返すか、あるいは前提を否定して「そもそも高くはない」と返すか。そう返してはじめて「高いのが問題だ」という相手のターンを防いだことになる。
ここで「うまいからいい」では返したことにならない。何故なら「高いのが問題だ」という価格の問題を何ら解決していないから。価格の問題を味の問題で返しても、話の本質的には意味が無いし、意味を持たせるのならば、何故価格の問題より、味の問題が重要なのかをあわせて論述しないと解決にならない。
ディベートの「聞く技術」とは、相手が肉の問題を話す際に、価格の問題なのか、味の問題なのかを見極めるために必要。ジャンケンで言えば、相手はグーなのか、パーなのか、チョキなのかの見定め。この見定めがあるから、自分がするべき対応がわかる。自分のターンでなすべき行動がわかる。

ディベート強者は聞き上手

つまりディベートが強い人というのは、相手のターンで何をされたのかを分析し、それに対する妙手を常に返せる人。相手のターンの分析という「聞く技術」と、自分のターンでそれを返す「話す技術」。この両方がある人。
「聞く技術」がないと、いくら「話す技術」があっても効果的にならない。攻撃ポイントを常に外して当てる頭の悪い戦士キャラになってしまう。それよりは腕力はなくても、的確に相手の弱点をとらえるハンタータイプがいい。相手の弱点を突き、弱らせれば自分に対する攻撃もまた弱くなる。攻守両面を考えると、猪突猛進の戦士より、クレバーなハンターの方がよっぽど役に立つ。
派手な議論が好きな人にとっては、こういうディベートの側面ってつまらないと思うんだけど、実際、聞き下手なディベーターにろくなのはいない。ディフェンスのダメなボクサーは大成しないというような話にも似ているな。本当にボクシングのような打撃系格闘技を極めようとすると、「ディフェンスしっかり」みたいな話になる。バスケットボールなんかもそうらしいね。交互に攻める球技だから、ディフェンスの質が如実に相手の得点に反映されるし、味方の攻撃回数を増やすことにもつながる。
人の話を聞かない人は議論ができない。人の話を聞かない人ができるのは、一方的な言葉の暴力まで。議論の応酬というスポーツ的なやりとりには不向きです。先手必勝の喧嘩世界観とか、「当たらなければどうということはない」のニュータイプ世界観ならいいけどね。