我らが舛添厚労相がいよいよ香ばしくなって参りました。年金資産をハイリスク・ハイリターン投資推奨であります。
「ひとつのやり方として、150兆円の3分の1の50兆円だけハイリスクハイリターンでやってみる。そうすると、四半期ぐらいの短期で欠損が出るということはあるかもしれないが、上手なファンドの組み方をすれば5―10年の単位では負けないと思う」
Reuters:150兆円の公的年金の積極運用、50兆円程度から始めれば国民の理解得られる=日本版SWF議連で厚労相
おお、実に大胆なご提案。ハイリスクでも勝てますか。そいつは凄い自信だ。
しかしハイリスク・ハイリターンを本当にわかってますかね。ハイリスクってことは、勝つこともあるけども、減ることもある。プラス20%になることもあれば、マイナス20%になることもある。そういうところに虎の子の財産突っ込んでいいんですかね。年金資産ということは、絶対に減らせないわけですからねえ。ギャンブラーだな舛添。
常識的な議論として「6・3・1」くらいならわかるけどね。つまりローリスク・ミドルリスク・ハイリスクの割合を6割・3割・1割。ローかハイかという話なら、せいぜい「8・2」がいいところだと思うんだけどな。「8・2」なら、ハイリスクの方で20%負けても、ローリスクで5%勝てばプラマイゼロになる。
- 8× 5%=0.04
- 2×20%=0.04
こういう話が現実的なんですがね。3分の1だなんて、とてもとても。よっぽど確実に勝てる勝負師じゃないとオススメできませんって。実際こんなことは政府の資料でも明らかなことで。これは年金積立金管理運用独立行政法人の資料。平成19年度補足資料。
年金は国内債券・国内株式・外国債券・外国株式の4つで運用されてますが、このそれぞれのパフォーマンスが2ページ目にあります。みりゃわかるように、一番安定しているのが国内債券。変動が少ない。だから危険性もない。故にローリスク・ローリターン。海外債券はややミドル寄り。でも基本的には安定している。ところが株式は国内・外国ともにぶれが大きい。大きく勝つこともあれば、負けることもある。舛添の言っていることは、「ここにもっとぶっこんで、勝負して儲けようぜ」ってことなんですよ。
でもって、これは余裕資金でやるならいいんだけど、虎の子の財産でやるような話じゃない。だってなくなったら困るもの。取り返すのに時間がかかったら、年金がどうにもならんようになる。
である以上は勝負しすぎないのが正解。神様でない限りは勝てるかどうか先のことはわからない。だからこそ「先は誰にもわからないので、長期的にみれば負けない投資方法で勝負する」ってのが最近の流行りだし、それにのっとった形で年金も運用されているわけでねえ。いわゆる「ポートフォリオ理論」にしたがって。それなのに勝負をけしかけるとは、よっぽど自信があるんだなあ、舛添。
ま、その背景には直近の四半期で損失が出ているのが理由らしいのですが。
2007年10―12月期の運用実績について、運用利回りがマイナス1.67%で1兆5348億円の損失を出したと発表した。
Reuters:150兆円の公的年金の積極運用、50兆円程度から始めれば国民の理解得られる=日本版SWF議連で厚労相
だから運用方法を変えねばならんと。
「運用のやり方について抜本的なメスを入れることが必要だ」との考えを示した。
Reuters:150兆円の公的年金の積極運用、50兆円程度から始めれば国民の理解得られる=日本版SWF議連で厚労相
でも、この投資手法は間違ってないんだよね。だって、結構儲かってるんですよ。同じく年金積立金管理運用独立行政法人の資料、平成19年度第3四半期運用状況をご覧下さい。
開いたらしおりの「(参考資料2)四半期ごとの収益率等の推移」を押しましょう。平成13年度以降の成績がわかります。
- 平成13年度 − 6564億円
- 平成14年度 −2兆5877億円
- 平成15年度 +4兆7225億円
- 平成16年度 +2兆3843億円
- 平成17年度 +8兆6795億円
- 平成18年度 +3兆6404億円
- 平成19年度 − 7924億円
この間の利益の合計はいくらでしょう。答え、15兆3902億円。そう、儲かってるんですよ、年金運用で。ならしてみれば儲かっているんです。
しかも、こりゃ冷静にみりゃわかることなんですが、サブプライムローンだなんだでひどかった昨年でさえ、マイナス1%弱なんです。億円単位だからスゲエ負けた気になるけども、パーセンテージでみればわずかの負け。あれだけ株が下がったのに負けてない。そのカギは分散投資と資産配分にある。先ほどの平成19年度第3四半期運用状況をもう一度開いて下さい。そしてしおりの「2.運用資産構成状況」をクリック。
- 国内債券 57.56%
- 国内株式 17.88%
- 外国債券 10.63%
- 外国株式 13.93%
はい、これが投資先の配分です。ほとんど国内債券。残りを3分割してますね。続いて「(2)各資産の時間加重収益率等」も見てみましょう。この下の方に平成19年度の各配分先のパフォーマンスがあります。
- 国内債券 2.02%
- 国内株式 −12.96%
- 外国債券 4.01%
- 外国株式 2.31%
ひと目で国内株式で大きくやられていることがわかりますね。13%負けてる。大きい負けですよ。但し、全体で見ると1%も負けてない。何故か。全体の18%弱しかそこに突っ込んでないからですよ。他の82%でボチボチやれているから、国内株式でやられても大丈夫と。こういう構造になっているわけでありますよ。
それに年金積立金管理運用独立行政法人の仕事ぶりは悪くねえです。さっきの「(2)各資産の時間加重収益率等」の下に「ベンチマーク」ってのがあります。これ、要は目安というか、平均値。「世間様と比べてどうなのか」を見る数字で、これと同じなら世間並み、これより良ければ世間より優秀、悪ければ残念な人たちということになるわけですが、見りゃわかるけど、ほぼベンチマーク並み。ということは世間並みの仕事はしているわけで、そう悪くないと。まして運用資産額は約93兆円もあるわけで、これだけの大金を世間並みでまわしているわけですから、井筒監督ならずとも「わるないよ」なのですよ。これをいじってどうすんのよ、舛添。
ま、もっと儲けたいという欲はわかるんだけどねえ。でも今以上にハイリスク勝負をする意義は全くわからん。現状でも株式に国内・外国合わせて3割投資しているわけで。これじゃ足らんとなりゃ、それこそもっとハイリスク商品に手を出す必要がある。そうなった場合の危険性たるや。ああ、恐ろしい。
世間で言われているほど年金運用は悪くねえです。まして、借金だらけの日本が国営ファンドなんてとてもとても。借金でギャンブルするオヤジと一緒なわけでさあ。勝負する金があったら、先に借金返そうよって話で。そうすりゃ国債の利払いも減るし。何でこういう当たり前の議論が出ないのか不思議でなりません。
「ポートフォリオ理論」に興味がある人はこちらをどうぞ。
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