(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

「教えない」という教え

旅立ちの季節というわけで、これまで新入社員向け・新アルバイト向け、アルバイト採用担当者向けの記事を書いてきました。

今回はこのシリーズ完結編ということで、入ってきた新人を迎える側、職場の先輩編です。上司としての心構えとかははじめての課長の教科書でも読んでもらうとして、ここではもっとマイルドに先輩としての感じ。よりリアルな立場で、よくある風景をイメージして書いてみたいと思います。

教えない

例によって非常識な出だしで恐縮ですが、あんまり自分の方から教えるのはよくありません。手取り足取り教えたくなるところですが、そこはグッと我慢。あえて放置です。
というのも、あなたが一方的に教えたことは、新人にとってあまり身にならない。それがどれだけ重要なことか、何故そうせねばならないのか、意義は何か。これを理解せぬまま教えられても、効果は薄いのです。本人に問題意識がないので。
なので、自分が教えるのではなく、新人が聞いてくるように仕向けたいところ。壁が来る前に壁の越え方を教えるのではなくて、壁にぶち当たったことを認識させ、その壁に対しどうアプローチするか。これを見守る。その結果、あなたに聞いてくるのでしたら、喜んで教えてあげてください。

不親切な人になろう

そういう意味で、不親切な人になるといい。新人が困っていても放っておく。
大抵の人はここで手伝ってしまいます。あるいは解決方法を教えてしまいます。しかしここで手伝うから、解決方法を教えてしまうから、同じような壁があるとまた越えられない。また手伝ってくれることを期待する。教えてもらえるもんだと思う。親切は仇になることが多いのです。新人の今後を考えれば、実は不親切に接したほうがいいのです。答えを自分で探すクセをつけたほうがいい。
なるべく新人自身に解決方法を考えさせましょう。

新人が困っている様を楽しもう

いやあ、Sですねえ。ドSです。ただ、これは性癖の問題じゃないんです。困った様をよく見ておけということなんです。新人が何について困っているのか。そのポイントや解決方法を考えておけと。そういうことなんです。
果たしてそれは新人自身で解決できるのか。人の助けがいるのか。そもそも新人がやるべき業務であったのか。怪我するリスクはないか。困っているのは新人の能力の問題なのか。それともその作業自体の問題なのか。会社・事業所の問題ではないのか。そういうことを考える。
自分がとるべき行動は、この考えの先にあります。不親切に見えて、実はよく見ている。これぞツンデレでありますし、「巨人の星」における明子アプローチと言えるでしょう。

手伝わないが、そばにいる

困っている様を見るには、あんまり遠くにいるとわかりません。さりげなくそばにいましょう。手伝わない。教えないけどそばにいる。いつも見ている。こういう関係性がよろしいのでは。
あるいは2人で同じ作業をしてもいい。作業を半分づつ分ける。黙々とこなす。その過程で自分の作業を見せる。見せるけど教えない。それを繰り返せば、そのうち新人はあなたの作業姿から何かを得る。いわゆる「盗む」。
非常に気が長い作業だけども、これを先に教えてしまうとうまくいかない。単なる知識として聞いてしまうと、新人にその知識を使いこなす準備ができていない。作業の勘所を理解してないので、その知識の活かし方が身についていない。
「何でそういうやり方をしてるんですか?」
こう聞いてくるようになれば、少なくてもやり方について問題意識を持ったという準備OKサイン。これが出てくるまで辛抱強く待とう。自分からは教えなくても、新人が「教えてください」を言える距離に自分を置こう。

期待するな

新人には期待しちゃいけません。できると思わない。自分で勝手に新人のイメージを設定しない。あくまでニュートラルに対応する。
大体期待するから教えてしまう。できないとイライラする。自分のイメージとの乖離が許せない。あえて何も期待しないことで、現実をすべて受け入れる。できないならできないで仕方ない。できないヤツをできるヤツに変える方法はない。新人が可能な範囲でやってもらう。新人なりのベストを受け入れる。
どうせ最初はみんなできませんよ。自分よりできるわけない。それは単純。経験値がゼロだから。自分より経験がない以上、自分以下であって当たり前。である以上は過度な期待は無用。まったく期待しないくらいでいいんでは。

押し付けない

あらゆることを押し付けない。期待もそうだし、教えもそうだし、イメージもそう。自分は自分だし、新人は新人。別人格なので、自分の期待や教えやイメージを押し付けてもしょうがないんですよ。
それに、新人が自分より器がでかい可能性もある。本当は自分よりでかいのに、小さい器の人間である自分が教えることで、新人をスポイルする可能性がある。オーバーコーチングの弊害ってありますからね。あんまり教えすぎると、教えた人より上にいけなくなっちゃうので。

十人十色

偉そうに語っておりますが、結局は新人といえど十人十色。このやり方が正しいとは必ずしも言えない。手取り足取り教えたほうが実は即効性は高いしね。マクドナルドのマニュアルが機能しているのはそういうところで。「この通りやりなさい」があると、そのレベルまではすぐ行く。コンビニなんかもそうですな。
但しそれ以上になりづらい。マニュアルはマニュアルであって、それ以上でも以下でもない。本来は最低基準。「せめてこれはやってくれよ」って基準で、本当はマニュアルを越えたところに目指すべきサービスがあったりするんだけど、マニュアルを先に覚えると、マニュアルで満足してしまう。マニュアル以上の人間にならない。こうした弊害がある。
ここで書いたのはマニュアル以上になってもらう方法論。こちらから教えないことで能力を引き出すアプローチ。但しこれは即効性がない。気の遠い話であり、本当にダメなヤツに当たると、いつまでたっても身にならない。「わかると思ってずっと待ったが、結局ダメでした」もある。ただ、これはマニュアル人間にならないので、最終的な到達地点は高いんだよね。マニュアルという枠を最初に設定しないので。それが狙い。長い目で考えれば、こっちの方がいいと思うんですがねえ。
ま、環境になっては「そんな悠長なことは言ってられねえ」みたいなところもあるかと思います。それを考慮に入れてお試し下さい。