(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

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肉ちょっといい話

肉の記事が人気になってる。

これはアルファNeek(単なる肉好き)として黙っていられませんね。今まで聞いたことなんかを羅列してみる。ま、肉に関する与太話ということでひとつ。主に「食べに行く」という外食視点で書いてますよ。

正肉は熟成、内臓は鮮度

肉は熟成されるとうまくなります。肉の成分であるたんぱく質が、うまみ成分に分解されるから。なので、たんぱく質の割合が多い肉ほど熟成に適しています。わかりやすく言えばカルビよりロースの方が熟成に向いているわけですね。脂身が少ない分、たんぱく質が多い。たんぱく質が多い分、うまみ成分にかわる余地が大きいと。
一方、いわゆるモツである内臓は、たんぱく質のうまみというより脂のうまみ。主成分が脂肪なので熟成には不向きです。脂肪はうまみに分解されないので。内臓を寝かしても、脂肪分が酸化したりするだけで、味が良くならない。単なる腐敗が進むだけ。
熟成させた方がいい正肉に対して、内臓は鮮度命。これはたんぱく質の含有量の差でありますし、主成分の差です。

正月・お盆は正肉を

正月やお盆には食肉市場なんかも閉まるわけですが、正肉はどうせ熟成期間があるので、新たな仕入れがなくてもあまり味に問題がありません。むしろ市場が閉まっている期間は、「確実に古い肉を食べられる=熟成が進んだ肉を食べられる」と考えることもできるので、むしろ肉好きにとってウエルカムだったりします。人気店が意外と空いてたりね。
その逆を言えば、正月・お盆直後の正肉はいまいちです。仕入れたての肉が出てくることがあるので。新鮮な肉であっても、味の深みが足りないことがあります。ま、このあたりは好みの問題ですがね。
一方、鮮度命の内臓は、市場が閉まっている以上、新鮮な内臓が入荷しない状態なので、あまりオススメできません。特に焼肉系のお店ではね。正月・お盆で新鮮な内臓をウリにしている場合、それは冷凍と考えてよし。
まあ、モツ鍋系だと最近はチルド技術が発達しているので、最近は問題ないようですがね。味の劣化はあまりないようです。

「ぷりぷり」は死後硬直の食感

基本的に「ぷりぷり」は鮮度の証拠と言えます。肉も魚も死んだ後はかたくなります。死後硬直というヤツですね。たんぱく質などがかたくなります。

一般的に美味しさと硬さは相関関係にある。

スーパーでおいしいお肉を選ぶ方法とその保存方法 - チョコっとラブ的なにか

鶏肉の場合、何故かたいとおいしいかと言うと、鶏肉は腐敗が早いので、新鮮な方がおいしい場合が多い。そして新鮮な状態とは、死後硬直が残っている状態のため、かたい方がおいしいと。こういう話なのです。*1
逆を言うと、柔らかいということは、死後硬直がとけ、ゆっくり熟成が進んだということです。肉でも魚でも死後硬直に向けてある時点まではかたくなり、そのピークを越えると熟成が進んで柔らかくなっていきます。熟成された風味が好みの場合は柔らかさという基準で肉を選んでもいいですし、新鮮な風味を求める場合は、かたさ基準で選ぶという方針がいいかもしれませんね。

スーパーには熟成が進んだ肉はあまりない

スーパーでは熟成が進んだ肉をあまり置きませんし、置きたがりません。理由は簡単で、熟成が進んだ肉は色が悪くなるから。熟成とはある意味で腐敗と同義なので、肉表面の色が悪くなります。酸化もするので、肉の表面が黒ずんでくるのが普通。そうした肉は見栄えが悪く、売れ行きに影響が出るので、あまりスーパーでは売っていません。曲がったきゅうりがないという話と同じですよ。見栄え重視なのです。内容よりも。
また、スーパーで買ってきた肉は熟成にも不向きです。もう小さく切られているので、表面積が大きく、腐敗が進む場所が多いから。熟成させるにはかたまりのままの方が都合がいいのです。チーズをイメージするといいですけど、表面はカビだらけだが、中はフレッシュなままでうまみだけが増えている。表面の黒い部分をそぎ落とすと、中心の赤い部分が残っている。こういう状態が理想なので。

熟成が進んだ肉を食べるなら焼肉かステーキ

ま、こういうことになってしまいますね。小売りされている肉に熟成は求められません。
本当にうまい焼肉屋の肉だと、外側に黒い輪がついており、中心に向けて真っ赤な本来の肉の色をしております。これが熟成した証。空気に触れる表面から熟成は進みます。なので、外側は黒くなる。しかしかたまりのまま熟成させれば、中心部は赤い色のままになるはず。このかたまりを食べようとするそのときに切り分けることで、熟成の進んだ肉をおいしくいただけると。そういうわけなんですね。

新鮮な肉には酸味を合わせる

新鮮な肉には酸味が合います。例えばレモンとかポン酢。これはたんぱく質の分解が進んでいないので、肉自体に酸が少ない。それを外部から補ってやることで相性が良くなるという結構科学的な理由があります。肉に酸がないから酸と合う。新鮮な鶏肉のソテーにレモンが合うのはこういう理由です。
逆に言うと熟成が進んだ肉には、肉それ自体に酸がありますので、酸味を合わせても生きない。黒胡椒とかシナモン、ナツメグなどのスパイスの方が、分解されて増したうまみ成分に対抗でき、相性が良いです。

肉も夏は痩せる

人間が夏バテするように、家畜も夏バテします。夏には食欲が落ちるし、痩せる。なので、夏場に処理された肉は、痩せた動物の肉なので味が落ちます。肥ゆるシーズンである秋、そして冬の方が一般的には肉もうまいです。
特に夏場の内臓はこうした理由もあっていまいちですね。内臓から弱るものなので。特に肝臓、レバーに来やすいです。人間と一緒ですね。

牛・豚は「安い」と報道されると高くなる

新聞やテレビなんかで「○○が安い」と報道されることがありますね。魚なんかだと「サンマが豊漁」とか。肉でもたまにそういうことがあります。
こういう報道があった場合、気をつけてください。一時的に、大抵値上がりします。スーパーなんかの小売りの現場では、「安い」という話が出たものは値上がりします。肉でも魚でも野菜でもね。「テレビで『安い』と言ってたのに、ちっとも安くなってないじゃない!」ということになります。
これは生産調整をするからです。安いとわかって食肉にする、安いとわかって漁に出る、安いとわかって収穫する。そんな損なことはしないと。非常に単純な話ですね。
特に牛・豚は生産調整がしやすいです。これまた理由は簡単で、飼育期間を延ばせばいいだけのこと。1ヶ月、2ヶ月飼育を延ばすくらい何でもありません*2。むしろ肉質が良くなるケースが多いくらいです。なので、安いと報道されると途端に出回る量が減ります。値段が上がるのもやむなし。
一方鶏はというと、飼育期間が延ばせないので、価格があまり上下しません。鶏の場合、あんまり飼育期間が長いと、肉がかたくなっておいしくないのです*3。元々飼育期間が短い動物であることに加え、親鳥になると肉が決定的にかたくなる。「1ヶ月様子を見よう」が通じない家畜なのですね。1ヶ月待つことで、鶏としての価値を失ってしまうので。
なので、牛・豚が安い情報が出たら、とりあえず鶏と覚えておくとよろしいかと思います。
以上、肉ちょっといい話。

*1:育成期間が長い地鶏の場合、熟成させた方がいい場合もあります。

*2:銘柄にもよりますが、飼育延長は比較的しやすい。

*3:一部地鶏はかたくなりませんし、肉質がかたくなるように育てるべき品種もあります。