(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

Googleが図書館を制覇する日

Googleもなかなか面白いことするよなあ。公立図書館の蔵書検索システムと、ブック検索の連動サービスをスタート。検索するとGoogleへのリンクが出て、それをクリックすると本の中身が見れるんだってさ。アメリカでのサービス。

図書館で蔵書を検索すると、検索結果の中にGoogleへのリンクも表示され、本文の一部を読めるようになる。

http://wiredvision.jp/blog/epicenter/200803/20080317131654.html

こりゃ便利だ。確かに資料を検索しているとき、中身をちょっと確認したいときってあるもの。ちょっと見れば要・不要が判断できるのに、中をチェックできないから現物で確認するしかない。そして無駄足……みたいなパターン。これを少し防げるかもしれない。これはいい。図書館好きとしては羨望のサービス。
ただ一歩離れてこの話を考えると、Google恐るべしだな。

図書館蔵書検索プラットフォームの独占

この取り組みはまだYahoo!もMSNも手がけていない。ということは、当面Googleの独占市場。となれば、全米の図書館の蔵書検索システムが、少しずつ、着実にGoogle化されることになる。Googleに対応し、Googleに合わせたシステムになる。やがてはGoogleのシステムを前提としたものになっていく。こうなってしまえばYahoo!やMSNが動いてももう遅い。
誰よりも早く手を挙げ、動き出したことで、図書館の蔵書検索市場を独占できる可能性がある。

より精緻な本好きの行動様式パターンがわかる

Googleの広告モデルって、検索用語にマッチした広告を出すことで広告の精度を上げ、よりその広告の情報を必要とする層に表示させようと。ま、簡単に言えばそういうことなわけですよ。検索するってことはその言葉に関心がある。関心があるなら、それに関連する広告を出せば買う可能性が高いんじゃないか。むやみやたらにやるより効率的じゃないか。検索する人間の好みを把握することで、広告収入につなげようじゃないか。そういう発想。
でもってその発想で言えば、図書館で本を検索するヤツほど好みがハッキリしている人はいないわけですよ。本が好きに決まっているわけです。その本が必要に決まっているわけです。「○○」って題名を図書館で検索するヤツは、その本を見たいから、読みたいから、借りたいから、コピーしたいから検索するわけですよね。
ってことは、Googleにとってもっともありがたいユーザーになる可能性が高い。検索する理由付けがこれほどハッキリしている層はないんですよ。わざわざ図書館まで行って検索するくらいなんで。家で検索する人よりも、本を必要としている度合いは高いと考えられる。そういた人の情報を収集することは、Googleのビジネスモデルに寄与するはず。一番欲しい情報かもしれんよ。本が貸出中なら、Amazonで注文してくれそうだしさ。

図書館の横断検索システムへの移行

今、この話は図書館で検索したらGoogleのリンクが出ますよと。図書館で検索を行うことが前提の話。図書館からGoogleへの片道。
じゃ、これを往復にしたら? 家で図書館の蔵書検索ができるようになる。図書館で蔵書検索しなくても、自宅でできる。中身を事前に確認できる。利便性が格段に上がる。
で、これって簡単なのですよ。道はあるので、単なる拡張工事。図書館の蔵書検索をオンラインでGoogleと結ぶ以上、Googleから図書館のシステムにアクセスするのは簡単。できないわけがない。図書館からGoogleへの道路をつくることで、より図書館に行きやすくなるわけですが、同時にGoogleから図書館に行きやすくなるのですな。
するってえと最終的には図書館の横断検索に結びつきます。ある本を検索する。Aという図書館にはあるよ、Bという図書館にはないね、Cだと借りれるよと。そういう風に表示される。事前に自宅の住所を設定しておけば、その本がある最寄の図書館が表示される。近い順にソートできることでしょう。図書館の場所はGoogle Mapで見れる。あるいはその本の広告が出る。雑誌であれば年間購読の広告が出るだろう。そうなるとユーザーによっては「じゃ買っちゃえ」になるかもしれない。そしてその可能性は高い。その検索をしている人は本好きである可能性が高いし、何よりその本を必要としている人だから。

図書館とGoogleにとっての「Win-Win

そしてこの話は両者にとってメリットが大きい。Googleのメリットはこれまでに書いたからいいとして、図書館にとってもかなり前進。

書籍をスキャナーで読み取り、画像データ化するのは手間がかかる。中小規模の図書館では、対応できないのが実情だ。Googleの力を借りることで、利用者へのサービスを高められる。

http://wiredvision.jp/blog/epicenter/200803/20080317131654.html

このあたりの面倒な作業を全てGoogleがやってくれる。利便性が高まればサービス向上。利用者ニッコリ。となれば図書館側も万事オッケー。無問題。費用をかけずに、サービス向上。一見理想的な話に見える。Googleだけじゃなく、図書館もWin。
となれば図書館も断る理由がない。「うちも是非」となっていくことは必定。そしてそのうち「よろしければ、そちらの検索システムをGoogleでやりましょうか?」という話になる。蔵書検索システムにかける費用もバカにならない。結構なお金を使っているはず。これもOK。
次に「利便性を上げるために、自宅からも検索できるようにしてはどうですか? サービスが向上しますよ」というささやきが来る。図書館は「サービス向上」という言葉に弱い。これもOKするだろう。
こうなっていくと、Googleは図書館にとってWinになる選択をし続けてもらうだけで、Googleのビジネスにとって理想的な形を手に入れることができる。図書館にとっては断る必要がない。いや、むしろ断る理由がないので断れない。より便利になりサービスが上がるのだから。しかしそうしていくことで、実はGoogleが大きな果実を手に入れる。壮大なWin-Winの袋小路と言いますかね。巧みな戦略だ。

問題は著作権者のWin

但しこのスキームに唯一欠陥があるとすれば、著作権者のWinが見当たらないこと。図書館の利便性が上がっても、著作権者のもとには一銭も入ってこない。本が売れなければ印税は入りませんから。ここが困った問題。図書館・Googleには都合が良い話だけど、著作権者にとってはいいことなし。
なので、このスキームが成功するかどうかは、著作権者との利益分配をどうまとめるかにかかってますな。三者がWinになれるかどうかがキーポイント。オレのつたない頭ではそのアイディアは思い浮かびませんが、Googleならそれをいつか考え付くでしょう。それを見つけたら、莫大な利益の源泉を手に入れるかもわからんね。これはアメリカ以外にも転用可能な話なので。
相変わらずGoogleの仕掛けは凄い。恐るべし、Google