何をどう考えてもこりゃ無理筋だよねえ。残業代の不払いで、従業員が「すき家」のゼンショーを刑事告訴。ゼンショーの言い分は「委託契約だから残業代支払義務はない」。
実質は個人を事業主として業務を委託する委託契約であり、割増賃金の支払い義務はないとした。また、店長については、仮に労働契約だとしても、労基法41条の管理監督者で、時間外手当は発生しないと主張したという。
http://www.asahi.com/national/update/0408/TKY200804080324.html
なんというウルトラC。ワタクシも元外食業界関係者として、元なんでも部長としてこういう問題を見てきましたが、ここまで凄いケースはちょっとないよね。マクドナルドもここまでひどくはない。少なくても、アルバイトとして採用した人間を「お前はアルバイトじゃねえ」「お前は個人事業主だ」「業務委託だ」とは言わないもんな。
「労働契約」か「委託契約」か
まずそもそもの問題を考えてみますか。この場合のアルバイトと会社(ゼンショー)の関係は労働契約か、委託契約か。
労働基準法では労働者を次のように定義しています。
第9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
法庫 - 労働基準法
これを東京労働局のホームページでは、わかりやすく次のように解説しています。
労働基準法が適用される労働者とは、
- 職業の種類を問わず
- 事業または事務所に使用され
- 賃金を支払われる者
をいいます。
東京労働局 - 労働基準法のあらまし
さらに「労働者性の判断基準」として次を挙げています。
東京労働局 - 労働基準法のあらまし
- 労務提供の形態が指揮監督下の労働であること
- 仕事の依頼、業務従事の指示等に対し諾否の自由があるかどうか
- 業務遂行上の指揮監督の有無
- 報酬が労務の対価として支払われていること
- 報酬の性格が使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることへの対価と判断されるかどうか
わかりやすく言うと、
- 仕事に対して指示を受ける立場で
- 指示に従って業務を行い
- その業務に応じて給料を受ける
こういう人は労働基準法上の労働者だよと。こういう人を働かせているってことは、それは労働契約だよと。そういうことなわけです。
でもって、これを頭に入れてゼンショーのケースをあてはめると、仕事に対する指示、依頼があり、監督を受ける立場であったのは疑うべくもない。
店長として他店の応援などを指示されたが
http://www.asahi.com/national/update/0408/TKY200804080324.html
指示された、監督を受けてた証拠。
また報酬面の条件も該当。
3人は時給制のアルバイトとして雇われた
http://www.asahi.com/national/update/0408/TKY200804080324.html
元店長の女性は05年春、本社が希望者を募って行う昇格試験に合格して、2万円の手当を毎月もらえる店長になった。アルバイトから契約社員になったが、時給950円での勤務だったという。
http://www.asahi.com/national/update/0408/TKY200804080324.html
時間いくらという労務に対する対価の関係があり、尚且つアルバイトから契約社員ということで、雇用関係は引き継がれている。何の問題もなく労働契約ですわねえ。店長といえど、契約社員といえど時給制でお金もらっているんだから。委託契約で時給はありえないからなあ。
逆にこれを委託契約とするならば、一体どの時点から? という話になるわけで。「委託偽装」を当然疑うケースであるわけですな。委託契約なら委託契約書をかわしているはずだし、従業員に個人事業主として必要な手続き一般をさせるわけだし。具体的には税務署に対する開業届提出とかね。それもなしに「委託契約でした」はないなあ。
管理監督者にあたるか?
また、これを「店長だから、管理監督者」というのも厳しい。
また、店長については、仮に労働契約だとしても、労基法41条の管理監督者で、時間外手当は発生しないと主張したという。
http://www.asahi.com/national/update/0408/TKY200804080324.html
管理監督者だとするなら、これと矛盾する。
店長として他店の応援などを指示されたが
ある店の責任者が他の店に行く。……一般的に考えてありえないだろ。その間、管理監督するべき店は誰が見ているんだって話で。
元店長の女性は05年春、本社が希望者を募って行う昇格試験に合格して、2万円の手当を毎月もらえる店長になった。アルバイトから契約社員になったが、時給950円での勤務だったという。
これもおかしいよなあ。2万円ぽっちで管理監督者? ってな話なわけで。金ももらってない、指示はあれこれ受ける。これのどこが管理監督者なのかねえ。これはこれで「管理職偽装」が疑われるケース。ということは「委託偽装」か「管理職偽装」かというダブル偽装。「どっちの偽装SHOW」。ごまかしたいのは……どっち?
しかし大丈夫なのかね、ゼンショー。これダメージが大きいぞ。マクドナルドの比じゃない。だってこれ、アルバイトの告発。そしてアルバイトを敵にまわす業務委託という主張。こんなことしてると、アルバイトが集まらなくなるぞ。アルバイトで働いたのに、ある日、いきなり委託契約になってました。個人事業主でしたじゃ誰も働かないだろ。
正社員:717名 パート・アルバイト:6,691名
会社概要 | 企業情報 | ゼンショーホールディングス
(2007年3月期)
正社員の10倍近くパート・アルバイトがいるっつーのに、大丈夫? 995店舗もあるのにさあ。正社員だけじゃ労働力をまかなえないのをわかってるのに。物凄い自爆行為な気がするね。短期的には逃げ切れても、長期的には良くないよ。
ゼンショーからバイト離れが起きる予感。ただでさえ労働力を集めにくい環境だというのになあ。……大丈夫か?