(旧姓)タケルンバ卿日記避難所

はてなダイアリーからの避難所

単純労働こそ頭脳労働

一般的に頭脳労働の方が「できるヤツ」と「できないヤツ」の差が出ると思われとりますが、とんでもない。「単純労働」に分類されるものの方が、この差は如実に出るもの。「単純労働こそ頭脳労働」って言ってもいいほど、頭脳の差が出るもんです。ええ、絶望的なまでにキッチリ出ますよ。
昔、某保養所で勤務していた折、フロントに加えてレストランの管理もしていたもんで、実に多くのアルバイトを見てきましたが、レストラン業務で一番頭脳の差が出るポジションは、実は洗い場(皿洗い)。接客とかじゃないのよ。洗い場なのよ、奥さん。
というのも、洗い場というのは単純作業の連続。要するに「食器を洗う→片付ける」なので。基本的には誰でもできるお仕事。専門性はないんだよね。それこそ主婦は毎日しているわけだし。家族がたまに手伝えるくらいだし。
ただ、専門性がないということは、誰がやっても変わらないってことなんですよ。経験があろうがなかろうが、人間がやる以上はそう変わらん。食器を洗うスピードなんかはまさにそうで、「1枚10秒かかるものを1秒で」みたいなことはない。そういう革命的なことは起きない分野。それに誰でも慣れてくれば早くなるし、大体同じようなレベルに落ち着くもんだしね。実際オレもスピードは評価材料にしてませんでしたよ。単なる慣れの問題で、時間が解決する領域なので。ある程度は教えれば解決することだし。
差がつくのは、こうした仕事の本体じゃないところ。洗い場であれば「食器を洗う」というメイン作業じゃないところなんですよ。準備であるとか、環境整備であるとか、作業順であるとかの。こういうところで決定的な差がつく。ここに「単純労働こそ頭脳労働」であるゆえんがあるし、「できるヤツ」と「できないヤツ」の差が出る理由がある。

明確な優先順位がある

「できるヤツ」は優先順位付けがしっかりしてますよ。どういう順番で片付けるか。これが明確。
例えば「大きなものから処理する」。大きなものはスペースを食うわけですよ。お刺身盛り合わせに使うような大皿とか。ああいうのはズバリ言って邪魔なのです。スペースには限りがあるのでね。下がってきた食器を置いとくスペースにも限界があるし、シンクだってそんな大きくないでしょ。
であるなら、そういうもんから片付けると楽。まずはスペース確保。そうすると浮いたスペースで別なことができる。作業効率が上がるのですな。
あるいは「多いものを処理する」。人間ってのはバラバラのことをするより、ひとつの作業を連続したほうが効率がいいんです。形や大きさが違うお皿を洗うより、あるお皿を連続してダーッとやった方が効率がいい。
特に収納まで考えればメリットは明らか。バラバラのものを10枚片付けるより、1種類のものを10枚片付けたほうが楽でしょ。そこまで考えられるヤツこそ「できるヤツ」。

応用がきく

優先順位付けがしっかりしているヤツってのは、その理由がしっかりしてるから順位をつけられるのです。明確な理由に基づいて作業順位を決定している。なので、その理由に反するシチュエーションが出てきたら、フレキシブルに順位付けを変えることができるんですよ。これこそ応用力。
さっきの「大きいものから」って話は、「スペースの確保」という理由があるからこその優先順位なわけですが、「スペースは無限にある」ということなら、優先して処理する必要はないわけですよ。むしろ「大きいものは後回し」でもいい。こうした柔軟性も「できるヤツ」に見られる傾向。

人に伝えることができる

優先順位があって理由がある。ということは、ある行動と、それに対する「何故?」という問いの答えがあるので、「何故そうすべきか」を人に説明できる能力があるんです。しゃべることへの得意・不得意という別な要素があるにせよ、基本的には指導者にもなれる。
またこういうタイプで、尚且つコミュニケーション能力がそこそこあるヤツがいると、職場全体の能率が上がっていくんですよ。そいつがどんどん引き上げていく。また新しいシチュエーションに対応するのも早い。例えば季節に応じて料理が変わり、使う食器も変わっていくわけですが、それに応じた作業手順もすぐできる。応用力があるから、状況が変わった場合の対処が早いのですねえ。管理者としてはこんなにありがたいことはない。
ところが、あまりこうしたことが一般的に意識されてないような気がしまして。極端なこと言えば「単純作業はバカでもできる」と。ところがこれまで書いてきたように、バカがやるから単純作業のままなんですよ。できるヤツがやれば体を使った頭脳労働になる。単純労働こそ頭脳を駆使して、生産性とか効率性を上げるべきなんだけどね。
そう考えていくと、単純労働分野こそ従業員の教育とかに力を入れるべき。抱えているヤツを如何に「できるヤツ」にしていくか。ここに将来がかかっているような。もちろん如何に「できるようになりそうなヤツ」を抱えるかも大事。そして「できるヤツ」を如何に長期間抱えるかという意味で、正規雇用を増やすべき。
教育に熱心じゃねえところとか、非正規雇用ばっかなんてのは長期で考えりゃ没落しますよ。数で解決というのは質とか志が低い発想だし、数を雇えば何人か「できるヤツ」もいるだろうって発想は単なる宝くじだしね。ま、究極は「どんなヤツでも大丈夫な単純労働」というシステムを作り上げることなんだろうけど、如何にマニュアルを整備しようが無理だしな。トヨタでもマクドナルドでもできてないわけだし。キャノンだって結局は熟練工に頼っているわけだしさ。
以上、正規雇用が少ない不況世代の30男がお送りしました。